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LAB
ベストパーツのDXが教えてくれた、
“仕事が変わる”ってこういうこと
住宅設備部材の専門商社として、創業から40年以上の歴史を持つベストパーツ株式会社。
仙台を拠点に、全国のエネルギー事業者、給湯・空調機器メーカーやホームセンターに部材や資材を販売してきました。震災を乗り越え、「物流改革」と「DX推進」を軸に独自の成長を続ける同社。その働き方はどのように進化してきたのでしょうか。代表取締役社長・室橋勝彦(むろはし・かつひこ)さんと業務部の佐藤陽子(さとう・ようこ)さんに、これまでの歩みと未来への展望を伺いました。
(左)代表取締役社長の室橋 勝彦(むろはし・かつひこ)さん、(右)業務部の佐藤 陽子(さとう・ようこ)さん
ベストパーツってどんな会社? 仙台発のストーリー
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SENDAI INC.:べストパーツ株式会社の創業のきっかけはなんだったのでしょうか?
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室橋さん:弊社は1982年、住宅設備部材の専門商社として仙台で創業しました。当時の市場はすでに大手企業が席巻しており、後発での参入は簡単ではありませんでした。
創業者は東証一部上場企業の元営業マンで、自信を持って独立したものの、最初はまったく売れませんでした。毎日営業を続けても成果が出ず、自信を失いかけていた頃、なぜか深夜にFAXで注文が少しずつ入るようになりました。
そこで気付いたのは、「売り込んでも必要とされなければ買われない」ということ。逆に、必要とされるタイミングが来れば必ず注文が入る。この体験から「部材は売り込むものではなく、必要になったら必ず注文される」という発想に至り、やがて『売るな、買われろ』というビジョンが生まれました。
当時は景気も良く、競合企業はケース単位での大量販売が主流でした。そこでベストパーツは小口販売に切り替え、必要な部材を必要な数だけ、迅速に届ける仕組みを築いていきました。
自動倉庫導入の背景と現場の変化
ベストパーツの自動倉庫システムは、入庫から保管、ピッキング作業、ロケーション変更まで、あらゆるハンドリングを機械が担う
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SENDAI INC.:少量が必要な時に手に入るのは、中小企業にとっては助かりますね。ベストパーツさんの一番の特徴である自動倉庫を導入したのは、いつ頃でしたか?
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室橋さん:2000年代に入ると、取り扱う商品点数は数千から1万点を超え、在庫管理は人間の記憶や手作業では追い付かなくなっていました。そんな矢先、東日本大震災で倉庫が大きな被害を受けます。
その当時は、販売エリアが全国へと拡大しはじめたため、大阪に進出して自動倉庫を導入する計画を進めようとしていたのですが、震災を機に「地元を大切にしてほしい」という社員や地域の声に背中を押され、仙台での再建を決意しました。
仙台での再建に際して自動倉庫を導入しようとしたところ、現場からは「人の仕事がなくなる」と猛反発がありました。しかし、結果的には導入して本当に良かったと感じています。

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佐藤さん:以前は、社員が倉庫の奥まで歩いて商品を探していたため、作業に時間がかかっていました。在庫管理も煩雑で、実際に見に行ったら「在庫がない」ということもありました。さらに、似た部材が多いため取り違えてしまい、お客様にご迷惑をおかけすることもありました。
自動倉庫の導入によって、必要な部材を数十秒で取り出せるようになり、業務のスピードも精度も格段に向上しました。
FAX受注業務を変えたAI-OCR
手書きの注文書や発注書の文字をAIに認識させるAI-OCR(Optical Character Recognition:光学的文字認識)。長い発注番号も自動で読み取ってくれるため、誤入力が減った。
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SENDAI INC.:自動倉庫導入の次は、AI-OCRというFAX受注業務の自動化にも取り組んでいると伺いました。開発までの道のりを教えてください。
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佐藤さん:ベストパーツでは、全国の取引先からFAXで注文が届くのが慣習となっています。書式は統一されておらず、手書きの注文も多いため、以前は営業担当や事務スタッフが一枚ずつ内容を確認し、システムに手入力していました。特に注文が集中する時間帯には、処理が追いつかず遅れが生じてしまうこともありました。
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室橋さん:最初は日本の大手企業に相談したのですが、「できない」と断られ続けてしまいました。そんな中、あるセミナーでGoogle出身の開発者と出会い、相談してみたところ、「必ずできる」と自信を持って言われたんです。その言葉が大きな後押しになりました。
取り組みを始めてからの2年間は目立った成果が出ず、現場からも不満の声が上がっていました。しかし、注文データの蓄積とAI学習の進展により精度が向上し、3年目にはシステムとして実用レベルに到達。現在では実務に欠かせない基盤となっています。
社員の“部材への愛”が詰まったカタログ
社員の“部材への愛”が詰まった「ベストパーツカタログ」
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SENDAI INC.:部材カタログの「ベストパーツカタログ」は紙でも発行されていると伺いました。DXを推進している中で、あえて紙のカタログにも力を入れているのはなぜでしょうか?
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室橋さん:現場の職人さんの中にはPCを使わない方もいます。また、紙のカタログなら電波の届かない場所や電源のない現場でも問題なく使えます。
多くの商品を一度にパッと比較できるのは、紙ならではの強みですし、紙のカタログにも存在価値があると考えています。
カタログに掲載する部材は、「会社が在庫を持つべき商品ラインナップ」を社員全員でチャット上で議論し、その結果を反映してつくられています。デジタル化は進めていきますが、紙を完全に廃止することは考えていません。アナログとデジタル、それぞれの強みを活かしていくことが最も合理的だと考えています。 -
佐藤さん:お客様は紙のカタログに付箋を貼ったり、メモを書き込んだりして使ってくださっています。やはり現場の感覚に合った形を残していくことも大切だと思います。
一方、調達部門のお客様の多くはPCを利用されておりますので、現場とオフィス双方のニーズに応える仕組みを両立させることが重要だと考えています。
ベストパーツが描くDXの未来像

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SENDAI INC.:DXを推進したいと考えている企業へアドバイスはありますか?
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室橋さん:まずは主力業務のデータをクラウドに蓄積することから始めてみてはいかがでしょうか。紙のデータでも構いませんが、きちんと構造化して残しておくことで、後から必ず新たな活用アイデアが生まれるはずです。
次に重要なのが、パートナーの選定です。最新のアルゴリズムにアクセスできる大学などのアカデミアと連携しつつ、現場と直接要件を詰められる小規模な開発企業と協働するのが良いと思います。柔軟かつ実践的な体制を持つことが大切です。
また、絶対に欠かせないのは、トップ主導の姿勢です。現場でのメリットが明確になるまで、粘り強く投資と説明を続ける必要があります。ボトムアップだけでは、既存サービスの導入にとどまってしまう恐れがあります。まだ世の中にないサービスを思い描き、それを形にしていくことで、仕事はもっと洗練されていくと考えています。
“デジタル化”の先へ、本当のDXに挑む

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SENDAI INC.:DXの取り組みについて、今後はどのようなことにチャレンジしていきたいですか?
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室橋さん:今取り組んでいるのは、あくまで“デジタル化”にすぎないと考えています。本来のDXとは、無人化や自律化にまで到達することだと思います。人口減少によって人手が減っていく中で、業務を止めずに回し続ける仕組みをどう作るか。そこが、次の大きなチャレンジです。
しかし、DXの目的は人を排除することではありません。人がより価値の高い仕事に集中できるようにすることです。AI生成を業務システムに導入すれば、単純な繰り返し作業を自動化するだけでなく、高度な計算、演算、データ処理も任せられます。
その分、人間はお客様の課題解決や新しい仕組みづくりなど、より創造的な仕事に力を注ぐことができます。 -
佐藤さん:入社当初は業務の慣れや経験といったことが重要でしたが、今では自動倉庫やAI-OCRの導入によって業務が大きく変わりました。お客様への対応もスピーディーになり、喜んでいただける機会が増えています。
また、ミスや作業遅延の時間が減り、「どうすればもっと良いサービスができるか」を考える余裕が生まれました。その積み重ねが、社員一人ひとりの成長の後押しにもつながっていると感じています。
未来を担う人材へのメッセージ

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SENDAI INC.:DXを推進する企業への就職を考えている若者へメッセージをお願いいたします。
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室橋さん:現在、当社ではデジタルに強い人材を育成しており、データアナリストのような役割を担ってもらいたいと考えています。これまで営業担当や企画担当が自らデータを見て「これが売れるのでは」と判断してきましたが、労働時間の制約もあり効率的ではありません。
今後はAIによる提案書作成も進んでいく時代です。
だからこそ、単にデータを扱えるだけでなく、その先にある「出口」、すなわち、お客様が最終的にどのような形でサービスや商品を受け取りたいのかを理解できる人材が求められます。
私は、よく野球に例えるのですが、プロ野球や大リーグでも膨大なデータの中から「成果につながる指標」を見極める力が求められます。単にデータを並べるだけでは現場では活用できません。使う人にとって本当に役立つ一つの指標を示せる人材こそが、組織を前に進める原動力になるのです。
データが好きで深掘りする人は多いですが、それだけでは成果に直結しないこともあります。重要なのは、データを最終的な顧客価値につなげる視点を持つことです。ぜひそのようなデータの見方や活かし方を学び、実践してほしいです。 -
佐藤さん:マーケティングや新しいことに前向きに挑戦し、変化を恐れず今までにない仕組みを生み出していく姿勢が大切だと思います。データを分析して現状を正しく把握し、改善につなげる力も重要です。
同時に、既存の文化や人間関係を大切にし、組織の基盤を守りながら支えることも欠かせません。つまり、「攻め」と「守り」双方の視点を理解し、バランスよく調和させることが理想です。
日々の気付きを大切にし、データの中から新たな可能性を読み取る力や、異なる角度から物事を捉える力を持つ人材が加わることで、組織はより柔軟になり、そして一層強くなっていきます。そうした存在になってほしいですね。

ベストパーツの取り組みは、新しい技術や仕組みを取り入れることで働き方が進化し、社員一人ひとりが、より創造的で価値ある仕事に集中できる環境を築けることを教えてくれます。挑戦を恐れず、現場とお客様の笑顔を大切にしながら未来へ進む姿は、大きなヒントになるのではないでしょうか。
PROFILE
ベストパーツ株式会社は、ニッチなニーズにお応えする、住宅設備部材の卸売業を営んでいます。 カタログ掲載部材の98%を在庫しており、独自のAI-OCRや自動倉庫を導入し、多品種小ロットの即日対応を実現しました。 お客様へ高品質で施工性の高い部材を厳選して提供し、現場の施工時間短縮と品質向上に貢献します。
ベストパーツ株式会社
Photo:SENDAI INC.編集部
Words:笠松宏子