03/26FRI

LAB

仙台市の防災テック事業育成プログラムと、
地元企業の挑戦

東日本大震災の発生から 10 年。防災・減災の仕組みを取り入れた新たな街「防災環境都市」に向けた、仙台市の産官学金の取り組みをお届けする連載「仙台市×防災」。
連載2回目のテーマは、仙台市の防災テック育成事業「仙台市 BOSAI-TECH イノベーション創出プログラム」。
採択企業の1社である株式会社トレック(仙台市青葉区)へ取材を実施し、プログラムを通じて開発中の新規事業の内容や、将来に向けた展望などをお聞きしました。

「防災 × ICT」をテーマに新規事業を目指す
「仙台市 BOSAI-TECH イノベーション創出プログラム」

仙台市 BOSAI-TECH イノベーション創出プログラム

仙台市 BOSAI-TECH イノベーション創出プログラム

 

「仙台市 BOSAI-TECH イノベーション創出プログラム」は、「防災 × ICT」をテーマに新規事業を生み出そうという意欲をもつ事業者と、 防災に関する課題意識を持つ事業者の双方を繋ぎ、仙台・東北地域における「BOSAI-TECH イノベーション・エコシステム」の形成を目的とした企業育成支援事業です。
2020年9月から2021年2月の半年間に渡って実施されたこのプログラムは、 県内外から多数の応募があったなかから、7社をプログラム採択企業として選出。
新規事業の企画・立ち上げに不慣れな事業者や、防災事業に取り組んだことのない事業者でも、 防災と事業開発それぞれの専門家から適切なサポートを受けながら、各社独自の防災テック事業を作り上げていました。

地元 ICT 企業トレックが企画する防災テック
「顔認識を活用した避難所ソリューション」

「顔認識を活用した避難所ソリューション」の概要

提案した「顔認識を活用した避難所ソリューション」の概要
(提供:株式会社トレック)

 

採択企業の1社である株式会社トレックは、プログラムを通じて「顔認識を活用した避難所ソリューション」を、新たな「防災テック」事業として提案。
顔認識アプリケーションをインストールしたタブレット端末を、避難所の受付など人が必ず通る場所に設置し、顔認証による本人確認に加え、避難者のデータ収集・活用による避難所運営の効率化を目的としています。
この事業を提案した同社の山下美保さんは、自身の被災経験に基づく避難所利用の課題に加え、避難所運営と利用者双方の視点に基づく展望を語っています。

  • 山下さん:顔認証によって得られた避難者のデータを活用することで、避難所の混み具合の可視化や最適な物資配送といった効率的な避難所運営だけでなく、持っている家族の写真から家族の避難先を探せるなど避難者とっても便利なものになると考えています。

    避難所のデータ収集・活用が進むことで、被災者が抱く不安を少しでも減らすことができれば、避難所を安心して使えるのではないでしょうか。

 

運営者である自治体のメリットだけでなく、利用者である被災者のメリットも網羅的に考えられています

運営者である自治体のメリットだけでなく、利用者である被災者のメリットも網羅的に考えられています(提供:株式会社トレック)

 

今回、このような事業を立ち上げようとする同社がパートナーに選んだ企業は、フィンランドの通信大手ノキア。ノキアが同プログラムを通じて取り組みたい課題は「5Gを活用した防災ソリューション開発」という難易度の高いもの。
最終発表を聞いたノキアの担当者は「半年という短い間で『5Gの活用』という私たちの課題に対し、防災を絡めたソリューションのアイデアをまとめきったことは素晴らしいと思います。
自身の原体験から利用者と運用者それぞれの目線で考えられただけでなく、災害時以外の活用方法や顔認証テクノロジーの選定についても考えられていたことで、事業化へのリアリティが高まりました。
5Gの環境整備など、私どもでお手伝いできるところはお手伝いしていきたいです。」と新規事業創出に真摯に取り組んだ同社の姿勢を評価していました。

プログラムをきっかけに日常に防災を取り入れた製品・サービス開発を

2021年2月で一区切りを迎えた同プログラム。 地元企業が防災事業に取り組むことのメリットとともに、参加企業に対する想いを話してくれたのは、 このプログラムを担当した仙台市産業振興課の小池伸幸さん。

  • 小池さん:日常に防災の視点を織り込んだ事業開発は、市民にとって企業やその製品・サービスが身近なものに感じてもらえるだけでなく、SDGsの達成を通じた企業価値の向上にも繋がると考えています。

    今回の経験が、すでにある製品・サービスに防災・減災のエッセンスを取り入れたり、防災ビジネスへ進出したりするきっかけとなることを願っています。

    仙台市はプログラム参加企業に対して、「仙台防災枠組 2015-2030」に基づく全体観を提示しながら、企業同士の提携支援や事業化の支援などを通じた伴走支援を引き続き実施する方針です。

    参加企業がプログラム内で提案した「防災テック」事業は今後、パートナー企業と手を取り、これらの支援を受けながら自社事業として育てていくことになります。

 

仙台市は2021年以降もBOSAI-TECHの創出・推進に向けて事業を進めることを明らかにしています仙台市は2021年以降もBOSAI-TECHの創出・推進に向けて事業を進めることを明らかにしています(引用元:内閣府デジタル・防災技術ワーキンググループ未来構想チーム 資料3)

  • 山下さん:IT業界自体の経験が少なくて参加した当初は不安でしたが、セミナーをはじめとする手厚いフォローがあって非常に助かりました。

    事業アイデアを練るに当たって分からないことがあっても、聞けば答えてくれるパートナー企業との関係性も、プログラムを進める上でよかったと思っています。

    きっと災害に対する不安は多くの人が共通していると思うので、このプログラムの経験を活かして、自分自身も使いたいと思える魅力的なプロダクトやサービスを作っていきたいです。

プログラムで得たことを活かして、
防災・減災周りでも技術革新を進めていきたい

また、山下さんと共に参加した同社の米須龍希さんは 同プログラムを通じて普段の業務では得られない貴重な経験が得られたことと、それをモチベーションにした地方での技術革新に向けた意気込みを語っています。

  • 米須さん:スマートフォンやタブレットをはじめとする IoT 技術が普及するなかでも、防災分野への活用は思ったように進んでいないことが、仙台市をはじめとする自治体へのヒアリングを通じて知ることができました。

    ノキアのような基幹技術を持つ企業と一緒に仕事をさせていただくなかで、防災・減災周りでも技術革新を進めていきたいと思っています。

 

左から米須龍希さん山下美保さん

左からプログラムに参加した株式会社トレック米須さん、山下さん

 

震災10年の節目を迎えて、若い力が集まる仙台市の「防災テック」構想。自治体だけでなく、地元企業の取り組みからも目が離せません。

株式会社トレックについて

株式会社トレック

 

今回、取材を行った株式会社トレックは、2021年で設立27年を迎える仙台市のICT企業。 Webシステムや業務用システム開発、多様なICTシステムのサポートを通じて、地域に根ざした課題解決を行っている会社です。 近年は「みやぎ認定IT商品」にも選ばれた、デイケア施設の送迎サービスの管理を簡単にし、施設運営の効率化を図るWebシステム「うぇるなび」をはじめとする介護分野に注力。「新しいモノ・おもしろいコトでものづくり」をモットーとした製品・サービス開発を通じて、社会全体を笑顔にすることを目指しています。

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≪Interview≫
避難所の運営を手助けする「顔認識アプリ」の開発に挑む トレック

▽東北ITトレンドLocalbookでも記事公開中! 『SENDAI INC.』×『東北ITトレンドLocalbook』コラボ企画

Words:菊池崇仁