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LAB
仙台でデジタル機器を使って
ものづくりを体験!
どんな人にも開かれたメイカースペース
「FabLab SENDAI-FLAT」
テクノロジーの発展により、より身近にものづくりができるようになってきた今日この頃。仙台の街にもデジタル機器を使ってものづくりができる場所があることをご存知ですか? どんな人にも開かれたメイカースペース「FabLab SENDAI-FLAT」。ここでは、ちょっとした思いつきも形として生み出せるのです。扉を開ければ、長年あたためていたアイデアも素晴らしい形になるかもしれません。 「どんなマシンが使えるの?」「どんなことができるの?」ーー。そんな疑問のあれこれを、スタッフの小野寺 志乃(おのでら・しの)さんと、大網 拓真(おおあみ・たくま)さんに聞いてみました。
インタビューに答えてくれた小野寺さん(左)と大網さん(右)
Point1『“つくっておしまい”じゃない。
成功も失敗も、すべて共有』
「FabLab(ファブラボ)」とは、マサチューセッツ工科大学のニール・ガーシェンフェルド氏によるプロジェクトとして始まったもの。「自分たちの使うものを、使う人自身が生み出す」という考えをベースとしたラボは、今では世界で200箇所を超えるほどに。日本国内でも、約20箇所でラボが開かれています。 今回お話を伺った「FabLab SENDAI-FLAT」は2013年にオープン。2015年には株式会社annolabから引き継ぎ、現在まで一般社団法人FLATが運営を続けています。小野寺さんはものづくりに関するデザインを学んだ経験を、大網さんはプログラミングを通して表現することを学んだバックボーンを基に、950名にものぼる会員の「つくりたい!」という想いを支えています。
壁に備え付けられたハンドツールの数々。室内の内装には、3Dプリンターやレーザーカッターで出力したものを利用している。
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小野寺:通常のメイカースペースは、自分がつくりたいもののために機材の使い方を学んで何かをつくリ出すための場所。でもここでは「こんなものをつくったよ。そしてこんな工夫をして、こんなデータも使ったよ」という、失敗も含めたものづくりの過程も共有していくんです。
だから利用者の方にはマシンを使うごとに製作記録ノートを付けてもらうようにお願いしています。いろんな情報を共有することで、誰かのものづくりのヒントにつなげていくことも重要だと思っています。
学ぶだけ、つくるだけじゃない。“シェア”することも大切!
Point2『所属や肩書きは関係ない。
つくりたい人がものづくりできることが大切』
3DプリンターにUVプリンター、レーザーカッターやデジタルミシンといった最新機器に加え、金槌、ドライバーなどのハンドツールまで、この場所にはものづくりに必要なマシンやツールが揃ってます。訪れる人は学生からサラリーマン、そして小学生に主婦と実にさまざま。皆、「私にできるかしら…」という不安を「私だってものづくりがしたい!」という意気込みに変換して、この場所を訪ねて来るのです。
「3Dプリンター」は、熱で溶かした樹脂をソフトクリームのように積み重ねることで立体的な造形物をつくることできる。
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小野寺:イノシシ用の罠をつくりたいと、ゼロから3DCADを学習した金型屋の方もいましたね。その方は設計がお仕事ではなく、マシンオペレーションをしている方。金型の試作はコストもかかるので、形だけでも出力してみたいと言ってこの場所を訪ねてきたんです。
他に印象的だったのは、作業している人をひたすら褒める女子高生。お父さんに連れられてきた子だったんですけど、全然物怖じしないんですよ。作業をしている人の横で「え〜、これ何つくってるんですかぁ?」「え〜!すご〜い!」って(笑)。
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大網:エンジニアの人たちって、なかなか自分からコミュニケーションを取る人が多くないんですよね。女子高生が隣に来て「何やってるんですか〜?」って聞かれた時に、専門用語で答えてしまって、うまく伝わってないことに気付くんですよ。
それで、わかりやすい言葉で説明し直したりしてね(笑)。そうなると、隣で作業をしている人にも今何をつくっているのかが伝わって、話のきっかけにもなるんです。
「FabLab」にはエンジニアとマネージャーが当然必要なんですけど、それに加えてチアリーディングをする人も必要なんだなって痛感しましたね。つくったものに対して「それ、すごいですね!」と言ってくれる人の存在って、すごく大きいです。
試作として3D プリンターで出力したイノシシ用の罠。イノシシが罠を踏むと、ワイヤーが脚を締める仕組みになっている。
他にも、将来エンジニアを目指す小学生や「欄間(らんま)をつくりたい」と訪れた奥様、この場所を「めっちゃ楽しい秘密基地」と呼ぶタトゥーの彫り師や、3Dプリンターで出力したものに塗り絵をするのが趣味になったおじいさんなどが集います。
ここに来る動機もつくりたいものも実にさまざま。ただ、根底にある「アイデアを形にしたい!」という想いは皆一緒です。
Point3『仙台は、ものづくりにちょうどいい場所』
都会と田舎の中間に位置するような仙台という場所は、ものづくりの観点から見るとどんな場所なのでしょう。そして、「FabLab SENDAI-FLAT」がオープンしたことで、仙台にはどんな変化が起こったのでしょうか。
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小野寺:仙台でも、今までものづくりを楽しんできた人たちがたくさんいたと思うんです。でも、みなさん家の中だけで楽しんでいたんでしょうね。「FabLab SENDAI-FLAT」ができたことで、その方たちがどんどんここに集まってくるようになってきたんだと思います。
今では家庭にも普及し始めた3Dプリンター。「FabLab SENDAI-FLAT」には、自宅にあるマシンで製作したものを見てもらうために訪れる方もいるそうです。
この場所はものづくりのためだけでなく、多くの人の目に触れる場所であり、反響を確かめるための場所にもなっています。そのステップが、次のものづくりへの着火剤になるのかもしれません。
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大網:特に首都圏にあるメイカースペースに言えることなんですけど、「誰でも使える」と謳いながら、つくり出すものがひとつの分野に特化しているんです。ビジネスとか教育、服飾、クラフトとかね。
もちろん、それぞれの場所が個性を打ち出して差別化を図るのはいいことだと思うんですけど、仙台ではそんなことはしたくない。そもそも、「ものづくりをしたい!」と思っているいろんな人たちを受け入れたいんです。 -
小野寺:それにひと分野だけだったら、私たちが飽きちゃう(笑)。だから仙台って、ちょうどいい。ちょうどよく、ものづくりができる場所なんだと思います。
さまざまな素材にプリントができる「UVプリンター」。ティッシュやフェルトにもプリントができるという。
Point4『伝統工芸は、デジタル機器と仲良くできるか』
「FabLab SENDAI-FLAT」には、「伝統工芸からものづくりの未来を考える」という独自のプロジェクトテーマがあります。 このテーマを突き詰めた時に、仙台のものづくりの環境はどう変わっていくのか気になります。ものづくりとは程遠い場所にいる人たちの視点や考え方にも、変化は生まれるのでしょうか。
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小野寺:ものづくりをする方、特にエンジニアの方って、つくることに興味はあっても素材自体にはあまり興味を持たなかったりするんです。
でもそこに、例えば「今度開発したデバイスにちょっと漆を塗ってみようかな」なんて思ってもらえたら、何か面白いことが生まれるんじゃないかと思うんですよ。「こことここがつながると、こうなるのか!」という発見があるんじゃないかって。
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大網:プロジェクトとしては、「伝統工芸を考える」というよりは素材全般に興味があると言ったほうがいいかもしれませんね。
伝統工芸に触れるのに、「昔はこういう手法でつくっていた」とか「漆ってあたたかみがあってなんかいいよね」みたいな考えって少しもったいない。
そうじゃなくて、その素材自体どんなところが優れているかに注目したい。漆だったら抗菌作用があるとか、オイルステイン以上に撥水性が高いとか、あとは硬化することで丈夫になるとか。そういう性能をどこに活かせるかを考えたいんです。
「白石和紙(宮城県白石市でつくられる、丈夫でふくよかな和紙)」だって、漂白剤に頼らず手作業でゴミをたくさん取るからこそ、年月が経っても黄ばまずあの白さを保てるし、肌当たりもいい。その特徴を活かせる使い道が、もっともっとあるはずなんですよ。
「寒冷紗(かんれいしゃ)」という布を漆で塗り固める伝統技法「乾漆(かんしつ)」でつくられた乾漆シート。漆の魅力がより身近に感じられる。
※「乾漆シート」は、宮城大学事業構想学群准教授 土岐謙次氏と株式会社郷自然工房 佐藤和也氏によって開発・制作されている。
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小野寺:そういった素材の性能を踏まえながら、工芸の技術を見つめ直すことで、「IoT(Internet of Things:インターネットを通じてあらゆるものが繋がり、お互いの情報や機能を補完・共生し合う状態のこと)」も入り込めるんじゃないかと思います。
伝統工芸ってどうしてもデジタルを排除するというか、“そんなこと無理!”ってなりがち。でも、工芸にデジタルを取り入れたらどんなことが起きるのかしらって思うんです。
もしかしたら工芸がもっと発展するかもしれないし、そこで得た経験が他のものづくり分野の技術に転用できるかもしれない。新しい技術を生み出す側として、伝統工芸を通じて、もう一度技術というものをこね直せたらいいなと思っています。
利用者に視点を合わせ、ものづくりを後押ししてくれる小野寺さんと大網さん。2人とも利用者の独創的な発想に刺激を受けることが多いという。
編集ソフトのAdobe Illustratorが使えれば、ここにあるデジタル機器の8割は操作できるそうです。
テクノロジーでものづくりがより身近になったと感じました。
PROFILE
「誰でも自由に思い付きを形にできる図工室」がコンセプト。訪れる人それぞれのものづくりの場としてだけでなく、「伝統工芸、素材、技術からものづくりの未来を考える」というプロジェクトテーマのもと、和素材とデジタルを掛け合わせることで生まれる可能性を探る場にもなっている。
FabLab SENDAI-FLAT
Photo:笠松 宏子
Words:及川 恵子