01/28WED
LAB
地域の未来をひらく「地産地消のDX」
インクレイブ×七十七銀行が示す
仙台発デジタル共創の可能性
地方DXはなぜ進まないのか
仙台発「地産地消のDX」が示す突破口
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が日常的に語られるようになった一方で、地方の現場では依然として「何から始めればいいのかわからない」という声が少なくありません。
特に東北地方では人口減少と人手不足が深刻化し、「取り組むべきだと理解しているものの、時間も人材も足りない」という切実な課題が多くの経営者から聞こえてきます。
こうした状況のなか、本社・仙台から全国展開を目指す企業・インクレイブ株式会社と、地域金融を担う七十七デジタルソリューションズ株式会社が連携し、「地産地消のDX」という新たな取り組みをスタートさせました。
今回は、インクレイブ取締役 吉尾 輝大(よしお・きひろ)さん、七十七デジタルソリューションズ 取締役企画部長 中津川 拓(なかつがわ・ひらく)さんに、「地方×IT×金融」の可能性についてお伺いしました。
(左)インクレイブ株式会社 吉尾 輝大(よしお・きひろ)さん、(右)七十七デジタルソリューションズ株式会社 中津川 拓(なかつがわ・ひらく)さん
仙台を拠点に活動するIT企業・インクレイブと、地域金融を担う七十七デジタルソリューションズ。一見、離れた領域に見える両社ですが、その根底には「地域を支える」という強い使命感が共通しています。
地方企業の多くが抱える“DXをどこから始めればいいのか分からない”という悩みに対し、両社は「地元の課題は、地元の力で解決する」という視点から連携を深めてきました。
SENDAI SIDEでは、そんな両社がどのように出会い、共感し、地域のデジタル化を進めてきたのか。その背景と相乗効果に迫ります。
「地域を支える」共通の使命感が、異業種連携の契機に

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SENDAI INC.:まずはお二人の自己紹介からお願いします。
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吉尾さん:私はインクレイブ株式会社で、ITプロダクトの企画・運営・開発を担当しています。Web制作やシステム開発を通じて、地域企業のデジタル化を支援してきました。
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中津川さん:私は七十七銀行グループの七十七デジタルソリューションズ株式会社で、DX推進やIT戦略を担当しています。震災後に地方銀行のシステム共同化プロジェクトに携わったことを契機にITの道へ進み、「銀行の未来はデジタル抜きでは語れない」と強く感じるようになりました。
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SENDAI INC.:業種は異なりますが、「地域の未来を支えたい」という想いは共通しているのですね。
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中津川さん:地方銀行にとって、地元企業の存続は自社の存続といっても過言ではありません。企業が継続的に成長できるよう“デジタルの面から支えること”は、私たちにとって使命だと考えています。
「地元の力で解決する」共感から始まった協業と相乗効果

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SENDAI INC.:最初の協業は、どのような形で始まったのでしょうか。
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吉尾さん:七十七銀行さんのビジネスマッチング事業がきっかけでした。私たちのサービスをご紹介したところ、「こうした仕組みをもっと地元企業に広めたい」と共感していただき、連携が始まりました。
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中津川さん:地方の中小企業にとって、DXはいまだに“遠い話”なんです。「何から始めればいいのか分からない」という相談も多い。銀行としても、単に融資するだけではなく、デジタル活用のスタートから伴走できる体制をつくりたいと考えていたタイミングでした。
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SENDAI INC.:連携によって、どのような相乗効果が生まれているのでしょうか。
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中津川さん:私たちには“地元の課題は地元の力で解決したい”という思いがあります。東京の大手ベンダーでは、どうしても地域の実情まで踏み込みにくいことも多い。その点、地元企業と同じ目線で伴走できるインクレイブさんの存在は本当に頼もしいです。
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吉尾さん:銀行さんという信頼性の高いパートナーが一緒に動いてくださることで、「銀行が紹介してくれたなら安心だ」というお客様の声を非常に多くいただきます。お互いの弱みを自然に補完し合える関係になっていると感じています。
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中津川さん:また、私たちは、お客様の経営状態や課題を日頃から深く把握しています。IT導入支援でも、各企業の状況に合わせて最適なサービスをマッチングできる強みがあります。地元企業であるインクレイブさんと組むことで、より高い安心感を提供できるようになりました。
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吉尾さん:商談に銀行担当者さんと同行する場面もあり、その場で企業の課題を整理しながら最適な提案に結びつけられる点も、連携ならではの大きなメリットですね。
自分の経験から生まれた
地方企業のためのデジタル解決策 「ivalue」

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SENDAI INC.:インクレイブさんといえば、月額定額のサブスクリプション型ホームページ構築サービス「ivalue」が代表的ですが、そもそもどのように生まれたサービスなのでしょうか。
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吉尾さん:実は私、もともとIT出身ではなく、住宅メーカーで営業をしていました。独立を考えた際、ずっと夢だった「カフェ経営」を実現しようと思ったんです。その準備でホームページを作ろうとしたところ、見積もりが100万円を超えていて驚きました(笑)。
「これでは中小企業や個人事業主には手が届かない」と強く感じ、それがサービスづくりの原点になりました。そこで、もっと安く・早く・簡単に導入できる仕組みを作ろうと考えた結果、月額制のホームページサービス “ivalue” が生まれました。

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中津川さん:非常に合理的な発想ですよね。地方企業にとって初期投資を抑えられることは大きなメリットですし、クオリティも高いので、銀行としても安心してご紹介できます。
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吉尾さん:ありがとうございます。「安かろう悪かろう」ではなく、プロのデザイナーが制作しているため、低価格でも品質にはしっかりこだわっています。
地域DXを前に進める、次の一手
七十七デジタルソリューションズのキャラクター「シチケロくん」が描かれたTシャツ。目標は「DXで未来をカエル!」こと。
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SENDAI INC.:今後の展開や目標について教えてください。
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中津川さん:現在は、効率化や業務改善といった「守りのデジタル活用」に関するご相談が中心です。ただ、本来DXはそれだけで終わるものではなく、「売上を伸ばす」「新しい価値を生む」といった攻めの領域にも活用されるべきものだと考えています。今後は、Webサイトやデータを活用したマーケティング支援、顧客獲得につながる“攻めのデジタル活用”を強化していきたいですね。
銀行は一般的に「真面目で堅い」というイメージがあるかもしれません。もちろん、信頼を守る姿勢は重要ですが、デジタル分野ではより柔軟で、時には尖った発想も必要です。地元ベンチャー企業の文化やスピード感を積極的に取り入れたいと思っています。
一方で、私たちだけでできることには限りがありますので、IT企業の皆さんと連携しながら、継続的に啓蒙活動を進めていきたいです。地域企業の“伴走者”として、デジタル活用の重要性を伝える役割を果たしていければと思います。 -
吉尾さん:現在、ivalueは全国で約1,500社に導入されていますが、目標は1万社です。全国の制作会社や広告代理店にもご利用いただけるよう、プラットフォームとしてさらに進化させていく予定です。
また、東京に負けない開発力を仙台に根付かせたい、という強い思いがあります。私たちのオフィスにはデザイナー・エンジニア・サポートスタッフがそろっており、チーム全体で「地域から世界へ」という意識を共有しながら取り組んでいます。
企業の課題は、デジタルを導入しただけでは解決しません。その力を現場で活かし、成果につなげていくのは、最終的には“人”だからです。
IT SIDEでは、地域にDXを根づかせるうえで金融とIT企業が果たすべき役割、そしてその実現を支える人材への期待に焦点を当てていきます。
地域の未来を支えるために
企業として果たすべき役割

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SENDAI INC.:地域に根ざす企業として、どのような想いで地域貢献に取り組んでいるのか教えてください。
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中津川さん:私たちは、現在の事業で直ちに収益を求めるというよりも、地域企業の成長支援や創業支援を重視しています。DXへの伴走支援はもちろん、スタートアップ支援やピッチコンテストを通じて、地元企業が次のステージへ進むための後押しを続けていきたいと考えています。
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吉尾さん:インクレイブでは、「SENDAI DOT PROJECT(仙台ドットプロジェクト)」という取り組みを行っています。青葉山公園仙臺緑彩館を拠点に、ビジネスコミュニティの運営やファミリー向けの地域イベントを開催しており、今年は約8,000人の方に来場いただきました。本業のITに留まらない、多方面での地域活動により仙台/宮城の活性化に取り組んでいます。

また、子ども向けの「自分のホームページを作ってみよう」というワークショップも人気です。楽しみながら創造力を育てられる活動として、継続的に取り組んでいます。

地域の未来をつくる、これからの人材像とは

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SENDAI INC.:DXが進むこれからの時代、皆さんの組織ではどんな人材が力を発揮していくと思いますか?
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中津川さん:新しいことに挑戦できる人材が必要だと考えています。銀行には失敗できない業務も多く、どうしても“堅い”イメージがありますが、これからはトライ&エラーの文化も根付かせていきたいですね。
また、デジタル・マーケティング・デザインなど、多様な専門性を持つ人材の採用も進めています。“銀行の枠”にとらわれない採用を意識しているところです。
実際、「地域をデジタルで変えたい」という思いを持つ学生は年々増えていて、若い世代からの関心も高まっていると感じます。 -
吉尾さん:インクレイブには、仙台にいながら全国の企業と最前線で仕事ができる環境があります。「仙台に残りたいけれど挑戦もしたい」という若い方にとって、魅力的な選択肢になっていると思います。
Uターン・Iターンの社員も多く、一度東京で働いた人が戻ってくるケースもあります。都会で培った経験を地元に還元できる点は、私たちのような地方企業ならではの魅力ですね。 -
SENDAI INC.:皆さんの組織では、どのような価値観や姿勢を持つ人材を求めていますか?
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中津川さん:七十七銀行では、 地元企業とともに成長していくことが本質だと考えていますので、地元企業に寄り添う気持ちを持った方が向いていると思います。
地域の企業にとって、銀行員は“お金を貸すだけの存在”ではありません。“気軽に相談できるパートナー”として見てもらえることが大切です。そうした信頼関係をしっかり築ける方と、一緒に働きたいですね。 -
吉尾さん:私たちが大切にしているのは、「ものづくりが好き」という気持ちです。「より良いものを作りたい」という姿勢があれば、経験やスキルは後からついてきます。
お客様と一緒にホームページやサービスを作っていく。その過程を通して得られる達成感がこの仕事の醍醐味です。
地域の未来をつくる挑戦者へ
地方こそ、挑戦が花開く場所

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SENDAI INC.:最後に、IT業界を志す求職者の方へメッセージをお願いいたします。
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中津川さん:金融の本質は「お金を貸す」ことではなく、「企業を育てる」こと。これからはDXや人材支援など、より多面的な支援が求められる時代です。私たちは、地域企業とともに学び、成長していける存在でありたいと考えています。
地方こそ、若い人の発想を強く活かせる場所です。デジタルやITを通じて、地域の未来をつくっていく。そんな挑戦をしてくれる人が増えることを期待しています。 -
吉尾さん:ITというと「エンジニアじゃないと無理」と思われがちですが、決してそうではありません。営業やマーケティングの視点でも“ものづくり”に関わることはできます。
私自身も文系出身で、全く別の業界から飛び込みました。この分野は本当に面白いですよ。自分のアイデアを形にして、社会に役立てられる仕事です。
「経験や技術がないから無理」と思わず、まずは挑戦してみてほしいです。地元からでも全国の企業を相手にビジネスができる時代です。好奇心を信じて、一歩踏み出してもらえたら嬉しいです。
デジタル技術がどれだけ進化しても、地域を支えるのは最終的に“人”と“信頼”です。
インクレイブと七十七銀行の共創は、地方におけるDXの理想形ともいえる「地産地消のデジタル化」を体現しています。
仙台から始まったこの挑戦は、地域企業が“自分たちの力で未来を描く”ための、確かな希望の灯になっています。
PROFILE
インクレイブ株式会社(本社:宮城県仙台市)は、ハイエンドな製品サービスと技術モジュールを開発・提案するITプロダクトメーカーです。20製品を超える開発実績があり、ITとものづくりの力でお客様の課題解決へ貢献していきます。グループ会社である「インクレイブR&D株式会社」と「ivalue株式会社」の3社一体で47都道府県・7か国のお客様へ製品と技術を提供しています。
七十七デジタルソリューションズ株式会社は、七十七グループの一員として、地域企業等の課題解決に向け、県内外のITベンダー等と連携し、お客さまのデジタル化・DXへの取り組みに伴走支援してまいります。 私たちは、新たな価値創造にチャレンジし、地域経済の持続的成長に貢献してまいります。 そして、お客さまの未来を、地域の未来をデジタルで変えていきます。
インクレイブ株式会社
Photo:SENDAI INC.編集部
Words:笠松宏子