10/30WED

LAB

地域密着Webメディアを
立ち上げてみた

FacebookやTwitterというSNSだけでなく、noteやIGTV、tiktokなどの多種多様な情報発信のプラットフォームが登場している現在。「自分でも情報発信をしてみたい!」と思う方も増えているのではないでしょうか。
今回は、仙台を拠点に東北各地のニュースを発信し続ける地域メディア「TOHOKU360」の編集長・安藤歩美(あんどう・あゆみ)さんへのインタビュー。大手新聞社の記者から独立し、この仙台でメディアを立ち上げるまでのこと、これからのことをお聞きしました。

  • SENDAI INC.:現在はメディア運営と編集長として、また以前は新聞記者として報道に関わりがありますが、小さい頃から憧れや夢を持っていましたか?

  • 安藤歩美さん:小さい頃の夢は画家でした。

  • SENDAI INC.:画家ですか?!

  • 安藤歩美さん:はい。なので、報道とか記者に対する憧れや意識はなかったんです。ただ、学級新聞を作ったり広報員長をやっていたりしたので、情報を発信することは好きでしたね。
    高校時代に進路を選ぶ時期になって、音大に進もうかと迷ったこともあります。

  • SENDAI INC.:大学では国際政治を学ばれたそうですが、そこに進んだきっかけを教えてください。

  • 安藤歩美さん:絵を描く、とか、音楽をやる、という芸術よりも、漠然とですが「直接社会問題の解決につながるような学問を学んだ方がいいのではないか?」と思い始めたんです。

    国際問題や国際紛争には興味があったので、国際政治の道に進みました。とても面白い学問で、これを生かすために外交官になろう、と思い、大学院まで進みました。

    ただ、大学院で勉強しながら、違和感を感じてもいました。目指している外交官という仕事が、自分が表現したいことをやれるものなのかなって。


    ――それと前後して、安藤さんは東日本大震災に直面する。

  • 安藤歩美さん:震災が起こった後、何かしなくちゃ、とはずっと思っていました。冬休みを利用して女川町を初めて訪れて、1週間勉強を教えるボランティアをしました。

自分が学んできたことと、
目の前で起きていることとの大きなギャップ

  • 安藤歩美さん:1週間滞在して感じたのは、自分が大学で学んだことでは、今まさに目の前にいる人を助けることができない、ということでした。

    国際政治という視点で勉強をしてきたけど、その中で生活している人たちのことを想像せずに議論していただけだったって。だから、もっと人に近いところで社会問題にアプローチできる仕事がないか?と考えた時に、ドキュメンタリー番組を作るディレクターや新聞記者であれば、表現もできて、より具体的な視点から問題を考えるアプローチができるんじゃないかな、って。


    ――大学院を卒業後、2年間新聞記者を務めた安藤さん。ここで、初めて仙台との接点ができます。

  • SENDAI INC.:仙台に来たのは、どういった経緯だったのでしょうか。

  • 安藤歩美さん:新聞記者ってみんなそうなんですけど、縁もゆかりもない土地に配属されるんですよね。私も、東北担当として配属されて仙台に来ました。

    入社時の面接の時に、被災地報道をやりたい、と伝えていたし思い入れもあったので、そこを汲んでもらえたのかな、と素直に嬉しかったです。

  • SENDAI INC.:首都圏から見る仙台・東北と、実際に住んでみての印象で何か違いはありましたか?

  • 安藤歩美さん:学生時代に女川町を訪れた時は、ボランティアが終わるとバスで東京に戻っていたんですけど……東京は明るいんですよね。で、東京では震災はもう過去のこと、として捉えられている。

    でも、被災地は未だに何かしら残っていて、進行形。人生や生活から切り離せないんだ、っていう意識は、住んでみて初めてわかったことでした。

 

2013年仙台市若林区荒浜を訪れる安藤さん

2013年仙台市若林区荒浜を訪れる安藤さん

 

自分の納得がいくことをやりたい

  • 安藤歩美さん:新聞記者時代に気づいたのは、自分は管理されるのが苦手だってことでした(笑)何か事件があれば、時間とか状況を問わず現場に行かないといけない。携帯のバイブ音が本当に怖かった時期もありました。

    事件とか事故の取材の時は、自分が納得いかないこともやらないといけない。それがもう、我慢できなくなったんです。

    今の自分があるのは、新聞記者時代の経験があるから。それは本当に思うことですが、自分の納得がいかないことに責任は取れないし、それを記事にすることも辛かった、というのが本音です。

被災地でのボランティアを通し、自分の進む方向を決めた安藤さん。その先に「仙台」がありました。安藤さんの仙台での生活は、この後どうなったのでしょうか……。

新聞記者として仙台で2年過ごした安藤さん。ただ、震災について伝えることを納得するまでできた、とは言えなかったそうです。そんな時、大手インターネットニュースメディアが、その地域に住む地域記者を募集していることを知ります。
そこへ応募した安藤さんは、記者時代の実績を買われ、仙台の地で地域のニュースを配信するフリーランスの記者として再スタートを切りました。

  • 安藤歩美さん:もともとインターネットは好きだったので、この仕組みを使った報道の可能性はもっとあるな、と感じてました。

    新聞や雑誌という紙媒体からインターネットへ移っただけで、記事に動画を載せることができるし、テレビ番組の尺(時間枠)を超えられる。
    そういう可能性を試してみたい、と思ったんです。

    時を同じくして、NewYork Timesが360度動画でニュース配信を行うことを知り、
    「これを地域ニュース配信や被災地報道で使おう」「VR報道をやろう、VRだけで報道するメディアを作ろう」と思い立った。
    これがTOHOKU360のスタートになりました。

  • SENDAI INC.:VR報道では、どんなニュースを扱いましたか?

  • 安藤歩美さん:福島第一原子力発電所周辺の視察に同行して、現地の状況を追体験できるような取材をしました。
    また、2016年に起こった熊本地震では、取材した映像ディレクターさんのVR動画を掲載しました。
    被災地の現状を伝え、たくさんの人に熊本を訪れてほしくて。

 

安藤さんから話を伺う

TOHOKU360のwebサイトにあるVR動画を見ながら、
安藤さんから話を伺う

 

  • 安藤歩美さん:あとは、がらっと方向性が変わるんですけど、仙台のこけしのしまぬきさんとのコラボで、仙台のアーケードをこけしと一緒に歩くのもやりましたね。

  • SENDAI INC.:こけしと一緒に歩く……。

  • 安藤歩美さん:こけしの中に私が入って、その後ろからカメラさんが撮影しながらついてきて。仙台の街中を歩いているような動画です。

    仙台のアーケード街って、江戸時代は仙台城に続くメイン通りだったんですよね。その名残や歴史的な意義をマメ知識のように随所に入れてあって、追体験できる動画です。

こういった様々な取り組みが大手企業の目にとまり、いくつもの協業が生まれた。 また、安藤さん自身がフリーランスの記者として活動して気づいたことがある。

  • 安藤歩美さん:地方でも、テレビやラジオは取材をして地域の情報を発信しているけど、現場に取材に行くネットメディアはなかったんです。こんなに東北中に面白い話題がいっぱいあるのに。

    しかも、ネットメディア、イコール東京。いかにコストをかけずにPVを稼ぐか、という傾向があったので、そうではないメディアを作りたかったんです。

「現場に行ってわかることを伝えるメディアをやりたい。でも、自分一人では東北中の話題を伝えきれない。」「じゃあ、そこに住んでいる人自身がニュースを書けば、プロが見つけられない面白い記事ができるはず……それに、その地域に住む人の視点の方が面白いのでは?」という仮説を安藤さんは立てた。

  • 安藤歩美さん:TOHOKU360では「ニューススクール」という、プロが書くことを教える講座があります。そこで記事を書く上で最低限抑えてほしい点をお伝えしています。

    ニューススクールの卒業生は「通信員」という立場で、それぞれの地域のニュースを書き、その記事を「ニュースマイスター」というプロがチェックをして公開します。

 

TOHOKU360のWebサイト

通信員の方々の記事はTOHOKU360のWebサイトで読めます。

 

自分で発信したいけど、自信がない!という人へのアドバイス

  • 安藤歩美さん:自分の思いついたアイディアを誰かに話すと、「それ無理でしょ」って顔をする人・言う人っているんですよね。そんなの無理だろうって。そこでしゅんとなっちゃうと勿体無い。

    何かしら形にして世の中に出すと、「面白いね」って人が集まってくる。今はいろんな手段があるから、アイディアを可視化しやすいし、いろんな人の目にも触れやすい。

    自分が信じていること・絶対に面白いと思っていることに夢中になってやっていると、何かにつながる、と信じてます。まずは可視化することを意識してみるのがいいと思います。

取材の時に必ず持っていくもの、を見せてもらいました。


“取材だー!”っていう時にPCを出すと緊張しちゃう方もいらっしゃるので、手書きでメモを取ってます。

 

地域のニュースをインターネットを通して世界中に発信するTOHOKU360では、東北各地・世界各地に住む通信員からの記事も配信しています。記事のやりとりや、月に1回の通信員会議にオンラインで参加する方もいるそうですよ。

PROFILE

TOHOKU360

東北のいまを、東北に住むみんなで伝える参加型ニュースサイト。東北各地に住む通信員が、自分の街の超ローカルニュースを全国へ、世界へとお届けします。

安藤 歩美(あんどう・あゆみ)

1987年千葉県生まれ。東京大学公共政策大学院修了後、産経新聞記者として宮城県を中心に震災後の被災地の報道等を担当。独立後、数々のYahoo!トピックス記事を執筆。2016年に東北の今を伝える参加型のニュースサイト「TOHOKU360」を創設、代表・編集長。NHKラジオ第一「ゴジだっちゃ!」木曜パーソナリティー。