04/06MON
LAB
仙台市が変わる、
近い未来の話。
最近よく聞くX-TECH
私たちの生活をどう変える?
あらゆる分野のテクノロジーが進化する中、私たちの近い未来を変えてくれる、新しい潮流が誕生しています。 その大きな総称が、「X-TECH(クロステック)」。今後の私たちの生活に大きな変化をもたらすモノとして、いま大きな注目を集めています。
課題先進地であるここ東北・仙台市では、 少子高齢化による労働人口の減少が大きな問題となっています。 例えば漁業や農業では、担い手不足による事業継続など、課題解決が急務。 ここでX-TECHが発展すれば、このような問題もクリアになって、「課題先進地」から「課題解決先進地」へと姿を変えることができるかもしれないのです。
では、X-TECHが発達することで、私たちの生活がどのように変わっていくのでしょうか。 今回は、X-TECHが発展した未来の仙台市を覗き見してみましょう。
そもそも「X-TECH」とは?
X-TECHは、“交差させる”という意味を持つ「クロス」と「テクノロジー」を組み合わせた造語です。
たとえば、金融(Finance)にテクノロジーを掛け合わせた「Fin Tech(フィンテック)」もX-TECHのひとつ。 スマートフォンを使ったQR決済サービスもフィンテックの一例、といえばイメージしやすいかもしれません。
フィンテックの他には、「アグリテック(×農業)」や「マリンテック(×漁業)」「ヘルステック(×健康)」などがあります。
このように、既存の産業にテクノロジーを掛け合わせることで、これまで存在しなかった新たなサービスや価値、商品を生み出すことをX-TECHといいます。
生活はどう変化する?
X-TECHが普及すると、私たちの生活はどのように変化するのでしょうか。
すでに浸透しているフィンテックを例にすると、スマホ決済アプリを使えば現金を持ち歩かずにショッピングできるだけでなく、支出管理もでき、さらには消費行動の分析もスマホ1台でできます。
とくに、東北地方は人口減少などといった問題が顕著な「課題先進地」と言われています。 社会の急速な変化のなかで、テクノロジーを活用して新たなサービスなどを生み出し、生産性を向上するとともに、労働人口や競合優位性を確保していくためにも、X-TECHは今後ますます必要不可欠な存在になってくるでしょう。
仙台市が注目しているX-TECHとは?
X-TECHについての理解が深まったところで、ここからは仙台市が注目しているX-TECHについてご紹介します。
これらが普及して私たちの生活に根付いたら……イメージを膨らませながら読んでみてくださいね。
すでに浸透しつつある『フィンテック』
いま、大きな盛り上がりを見せている「フィンテック」は、仙台市でも注目されているX-TECHのひとつです。
2019年、楽天生命パーク宮城で完全キャッシュレス化を目的とした「スマートスタジアム構想」が話題になりました。 これによりチケットやグッズの購入、スタジアム内のすべての店舗で完全キャッシュレス決済ができるようになったのです。
仙台駅で行われた「モバイルオーダー実証実験」も、フィンテックの代表的な事例として大きな話題を呼びました。 モバイルオーダーとは、飲食店やカフェなどでスマホを使って事前に注文・決済することで、店頭で待たずに受け取れるサービスのこと。
時間のないときでも待ち時間なくお買い物ができ、お店側は店舗オペレーション軽減や新規顧客を獲得できる。 身近な話題なだけに、今後のフィンテックの発展が楽しみですね。
若者の漁業離れの救世主にもなる『マリンテック』
次は、漁業にテクノロジーを掛け合わせた「マリンテック」。 東日本大震災の影響もあって、いま漁業では担い手不足が大きな問題となっていることをご存じでしょうか。
これまで漁業では、長年の経験に裏打ちされた「熟練の技」が重要視されてきました。 漁業を継ぐ若い人が不足している現状の救世主となるのが、漁業にテクノロジーを掛け合わせた「マリンテック」です。
その中のひとつが、東杜シーテック株式会社が開発した「スマートエコー」。 これは魚の雌雄を判別する製品で、主にタラやサケに使用されています。
タラやサケは外見だけではオスとメスの判別が難しく、今までは職人さんが一匹ずつ手作業で判別していました。 しかし、スマートエコーを使用することで、漁業経験のない素人でも、一瞬で正確に判別できるようになったのです。
このように漁業の一部の業務をテクノロジーが肩代わりすることで、作業負荷の軽減につながるのはもちろん、「採れた魚をどうやって市場に出すか」「どう価値を高めていけばいいのか」など、これまでとは違った業務にリソースを割けるようになります。
SENDAI INC.では「スマートエコー」の開発秘話についても取材しています。詳しく知りたい方はぜひこちらもご覧になってみてください。
『ヘルステック』で医者が来る時代が到来!?
医療分野においても、テクノロジーが注目を集めています。 冒頭でもご説明したとおり、東北地方は、全国的に見ても少子高齢化や人口減少が進むエリア。 病院に行きたくても、行けないご高齢者が多くいらっしゃいます。
そこでヘルステックの出番。通院の負担を軽減するオンライン診察だけでなく、車両などのモビリティと掛け合わせれば、病院に行かずに診察はもちろん、簡単な検査などを受けられる日もそう遠い未来ではありません。
長野県伊那市では、すでに「ヘルスケアモビリティ」の実証実験が行われています。 看護師が車両に乗って患者の自宅などを訪問。車内に設置されたテレビ電話を通じて医者が遠隔で患者を診察し、それをもとに看護師が必要な検査や処置などを行います。 つまり、「医者に行く」時代から「医者が来る時代」がすでに到来しはじめているのです。
医療機器メーカーのフィリップスが、日本初のイノベーション施設である「Philips Co-Creation Center」を仙台市内にオープンしたのが2019年5月のこと。 少子高齢化をはじめとした多くの課題を抱える仙台を舞台に、新たなヘルスケアやありかたなどに対する取り組みを全国に先駆けて行なっています。
二次災害のリスクを軽減する『防災テック』
防災にも、テクノロジーの力が導入され始めています。 避難誘導中に殉職された方もいた東日本大震災。 こうした二次災害のリスクを軽減してくれるのが「防災テック」です。
仙台市は2019年11月、ドローンに搭載されたスピーカーやカメラを使い、逃げ遅れた要救助者を発見、避難場所へと誘導する実証実験を行いました。
この実証実験では、ほかの回線が混雑していても運用に問題が出ないように、ドローン専用のプライベートLTEネットワークを使用。東日本大震災で浮き彫りになった問題に対処した実験となりました。
このように、多くの「X-TECH」がすでに動きはじめています。 これらが普及し、私たちの生活に根付いたら……そう考えると、これからのX-TECHの発展からも目が離せません。
Illust:太田サヤカ Words:幸谷亮