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PEOPLE

宮城・仙台に
ゆかりのなかった、
とあるIT企業。
そんな企業が他の都市ではなく
なぜ「仙台」にコワーキングスペースを設けたのか。

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2018年6月に東北最大級のシェアオフィス・コワーキングスペース「enspace」がオープンしました。
仙台市青葉区の晩翠通り近くにある7階建の一棟複合施設で、ITを中心としたビジネスの拠点として注目されています。「enspace」を運営するのは、株式会社エンライズコーポレーション 代表取締役CEOの吾郷 克洋(あごう・かつひろ)さん。
広島県出身で東京都在住という吾郷さんは二年前、はじめて仙台市を訪れたといいます。それまで仙台にはゆかりのなかった吾郷さんが、なぜこの地にシェアオフィスを設けることにしたのか。外から見た仙台の魅力や、企業誘致、会社の取り組みについて聞いてみました。

東北・仙台の「変わろう」とする熱量に惹かれた

〈仙台に注目したきっかけは何だったのでしょうか?〉
私は出身が広島県だということもあり、それまでは全く東北を知らなかったんです。でも二年前、初めて仙台を訪れ、衝撃を受けました。もっと田舎だと思っていたけど、実は東京からも近くて「一時間半で着くなんて、すごい!」と。すごく意外でしたね。仙台にUターンした先輩に街並みや人をたくさん紹介してもらって、だんだん仙台を好きになっていきました。
これまでも大阪・広島・福岡・札幌にサテライトオフィスを設けてきたんですけど、新しい拠点を探していたので、仙台にサテライトオフィスを置くことを考え始めたんです。


株式会社エンライズコーポレーション
代表取締役CEO 吾郷 克洋(あごう・かつひろ)さん

〈そこから、なぜ仙台でシェアオフィス・コワーキングスペースを作ろうと思ったのでしょうか?〉 
仙台に行く少し前、アメリカのシリコンバレーに行ったんです。ITの本場だから「見ておかないと」と思って、勉強も兼ねて現地のシェアオフィスに行ってみると、ものすごい熱量で圧倒されました。
いろんな会社の人たちが同じ場所で仕事をしている中で、ちょっとした会話の中からたくさんの化学反応が起こるというか……。その場にいるだけでワクワクするような、爆発的な熱量を感じました。「日本でもそういうところないかな」と探したのですが、やっぱりそれはなかなかなくて。それなら、どこかにシリコンバレーで感じたような熱い場所を作ったら、面白いんじゃないかと思い、「じゃあ、自分で作ってみようかな」と。 そうしてシェアオフィスの運営を考えた頃、タイミング良くこのビルと出会って、「一棟丸ごと東北最大級シェアオフィス」の構想ができました。そうしたら、たまたま「IT都市・仙台」っていうのを見かけて、「これだ!」って思いました。

〈いきなりのシェアオフィス運営、不安はなかったのでしょうか?〉
そうですね。私自身、シェアハウス・コワーキング専門でやってきたわけではないので、初めての事業で怖さもありました。でも仙台のいろんな人と話をしていると、言葉にはあまり出さないけど、震災に負けず「復興しよう」という熱い思いを感じて、奮い立たされました。 仙台をはじめ、東北の熱量っていうのは「変わろう」という思いからくるものが大きいんです。戦後の復興も、やっぱり痛みがあったからこそ、急激な変化も乗り越えて復興できた。東北の人も、産業も、行政も、同じように痛みがあったからこその熱量を感じました。そこに、私がシリコンバレーで感じた熱い空気感を持っていけば、社会貢献にもなるし、仙台だからこそ、シェアオフィスを作る意味があると考えました。

新しいものと古いものを融合し、何かを生み出せる場所

〈この建物に決めたきっかけは何だったのでしょうか?〉
実は、この建物の上の階には居住者がいたんです。下の階はボロボロで、ここなら安く貸しますよって言われていて。「外観もボロボロだから、外観も自分たちで変えてもいい?」って聞いたら、「実は今売りに出していて、買いませんか?」と提案されました。最初はお断りしたのですが、このビルをフルリノベーションしたら、面白いかも、と。やるんだったら徹底的にやって、圧倒的な提案をしたい。そうして事業計画書を持って銀行へ行ったら、銀行の方も同じ熱い気持ちを持ってくださって、今があります。


会議室は4〜42名が収容できる場所が11部屋あり、会議だけでなくヨガ教室や絵画教室など、様々な用途で利用することができる。

〈フルリノベーションされるときに、気をつけたところやこだわった所はありますか?〉
コンセプトは『グローカルファクトリー』と掲げました。地域(ローカル)と世界(グローバル)を「グローカル」として、そこから何かを生み出す工場にしようと考えました。古いものと新しいものを融合させることで、何かが生まれるという思いも込めました。
なので、デザインも古さを残しています。いろんなジェネレーションの人たちが出会ってほしいので、新しいものと今までの価値をリスペクトしながらやっていこうというのがデザインにも表現されています。他のスペースでも工場感を表してありますよ。


工場感を意識したインテリアデザイン

〈大きいイベントスペースもシェアオフィスでは珍しいですよね〉
やっぱり、シェアオフィスっていうのは圧倒的な共有スペースに価値があると思うんです。
共有スペースは広げれば広げるほど、会社としての収益性は少なくなります。ただ、私たちの目的は不動産事業ではない。共有スペースが大きければ、利用者はそれらも自分の会社として使えるわけですよね。
だから、共有スペースも自由に面白い使い方をしてほしいです。それを見ていた人が使い方をどんどん真似して、さらに新たなものづくりにつながっていけたら素敵ですよね。


プレゼンスペースはシアタールームのようになっており、一般的な会議とは違った演出が可能。


フリースペースには卓球台も設置されており、プレゼンスペースと組み合わせた利用により、広いスペースができる。

晩翠通り周辺が東京「裏原宿」のようなコンテンツに

〈この周辺地域の印象はいかがですか?〉
カフェもあるし、肴公園の近くに大きなマンションが建つ予定になっているし、どんどん面白い場所になってきていますね。斜め前の雑貨屋さんも人気で、若い子たちがいっぱい来てここをチラチラ見ていますよ。
ビジネスを活性化するということも大事ですが、このエリアを活性化することも「enspace」を盛り上げるために必要だと考えています。

〈周辺地域を盛り上げていく活動もされるのですね〉
商店街からちょっと外れたこの場所で、東京でいう「裏原宿」のような独特のカルチャーができて、それがコンテンツ化して発信されるようになったらいいですね。駅前がどんどん活性化するっていうのはどこの地域でも同じで、そうではない商圏エリアがあるのが面白いんです。だから地域のコミュニティとも仲良くしたいし、行政ともいろいろな話をし、協力しながらできることをやっていきたいです。

「IT都市・仙台」で全国の企業を誘致する

〈実際にシェアオフィスを開設してみて、いかがでしょうか〉
イベント利用の方が多いですね。この前も3イベントが同時に開催していて、1日で約100〜200人が出入りしていました。「こんなところがあるんだな」と徐々に知ってもらえています。そんな感じで、会議室やイベントの運営で使ってもらえる機会は増えてはいるのですが、イベントに参加する人たちはすでにオフィスを持っているので借りる必要がないので、入居にはつながっていないんです。


キッチンはイベント時には嬉しい設備。

〈そうすると、ここの機能性も変わってきますか〉
今は、仙台のコミュニティ内で知ってもらえるように動きつつ、東京・大阪・福岡の経営者団体に「仙台に来ないか」と企業誘致をしています。
ただ、誘致をするにあたって、東北や仙台にどんな魅力があるのかを、きちんと整理しないといけません。東北の学生は非常に優秀だし、実直だし、若い人のエネルギーがたくさん生まれてきていることも魅力的ですよね。
東京から見ると、販路の拡大や採用のために大阪・福岡に出ていく企業も多いのですが、同じように「東北ってありだな」って思い始めている企業もたくさんあります。その流れをもっとしっかり作りたいと思っています。

大切なのは、仙台に住所を持つということ

〈仙台での「販路の拡大」と「採用」についてもっとお伺いしたいです〉
企業誘致する時は、二つのキーワードでプレゼンをします。一つ目は「販路確保と拡大」、二つ目は「採用」ですね。そのために仙台に拠点を置きませんかという話をしています。何が目的なのか、というのは会社によって様々ですが、大切なものは一緒ですね。
採用の面で言うと、東北で採用をした人材が東京で教育を受けて戻ってくる場合もありますし、逆に東京で経験を積んだマネージャーを採用し、東北に来てもらって、そこでメンバーを育ててもらう場合もあります。
販路拡大でも採用でも、どちらの場合においても一番大切なのは、まず住所を置くことですね。

学生が活躍し、盛り上げていく場

〈「enspace」のスタッフは学生インターンだとお伺いしました〉
そうですね、大学生にお願いをしています。責任者は社員ですが、他に大学1〜4年生が20人以上働いてくれています。この20人と一緒にもっとこの場所を盛り上げていきたいです。ここでつくっているWebメディア「toWorks TOHOKU」も、学生がインタビュアーを務めているんですよ。


Webメディア「toWoks TOHOKU」

〈その活動はどのように始めたのでしょうか?〉
インターン生の中に、進学で関東から仙台に来て、4年間過ごした子がいるんですが、仙台にはすごく感謝しているけれど、就職で関東に帰るそうです。「関東にいる人たちに東北の良さを伝えたいです」と言うので、「今のうちにいっぱい取材をして、アピールしようぜ!」って。
学生ならではの目線で、人やサービスだけなく、会社や事業など、ポテンシャルのあるものを取材してもらっています。東北を知らない人たちが、それを見て訪れてくれたら嬉しいですね。

東北でやっていきたいこと、これからについて

〈IT企業として、これから東北や仙台でやっていきたいことはありますか?〉
今後は、いまやっているITコンシェルジュのサービスを東北で広めていきたいです。うちはサーバー、ネットワーク、クラウドなど、すべてのエンジニアたちを揃えており、人をお客さんに派遣するのではなく、時間でシェアリングするサービスもやっています。内容と時間を言ってくれれば、全員でそれに対応します。エンジニアを一人採用するのではなく、代わりに会社としてITがわかる部下を10人くらい持つというイメージです

〈なぜ、このITコンシェルジュのサービスをやろうと思ったのですか?〉
今、200人ほど社員がいるのですが、その4割が女性エンジニアなんですね。でも女性は将来、家庭の事情で「今月は30時間までしか働けない」となることもあります。でもエンジニアは専門性があるので、月に30時間働いてもらえれば十分。そこで、このサービスを思いつきました。
現在は、お客さまのところに派遣する常駐型、SI(システムインテグレータ)の受託の持ち込み型、あとはタイムシェアリングを始めていて、これが今の中小企業が抱える人材不足という課題にも沿っています。

〈今後の目標などありましたら、お願いいたします〉
これから人口はどんどん減少していくので、当然IT業界でも人手不足が深刻化していきます。その問題を解決するためにも、エンジニアの育成に注力し、世の中の人手不足を解消していきたい。これからも、人手不足を解決するための効率化を支援していきたいです。

PROFILE

広島県生まれ。地元の大学を卒業後、東京のベンチャー企業に入社。その後、IT系ベンチャー企業の立ち上げに参画し、2012年にはITインフラサービスに特化した株式会社エンライズコーポレーションを設立。設立から約6年間で国内5カ所と米国シリコンバレーにもサテライトオフィスを設ける。エンジニア人財の「採用」と「育成」に積極的に取組み、新規事業のチャレンジなど、人と事業の成長に力を注いでいる。

東北最大級のシェアオフィス・コワーキングスペース enspace

Photo:小林啓樹(OPEN TOWN)
Words:清水千晶・笠松宏子(RaNa extractive)