04/21MON

PEOPLE

ITで農業をイノベーション!
仙台発・舞台ファームが
切り拓く新時代とは

320年以上の歴史を誇る伝統的な農業家のルーツを持ちながら、現代の最先端技術を積極的に取り入れ、さまざまな事業に挑戦し続けている「株式会社舞台ファーム」。農業DXの先駆者として、国内最大級のリーフレタス工場「美里グリーンベース」や、IoT・AI技術の導入など、農業業界に革命をもたらす取り組みは枚挙にいとまがありません。

 
そんな舞台ファームは、仙台市の運営する「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」の課題解決プログラムに取り組みました。「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」は、産業分野とIT技術を掛け合わせ、地域企業の新産業創出を支援するプロジェクトです。

 
今回は課題解決プログラムの成果発表の場として開催された、「仙台X-TECHイノベーションアワード2025」に参加した様子をレポート。

 
また、「美里グリーンベース」にもお邪魔し、舞台ファームのIT戦略や挑戦の背景に迫りながら、舞台ファームでのキャリアや将来の展望まで伺いました。

「伝統と最先端が交わる舞台」農業DXで
世界を驚かせる舞台ファームの挑戦

宮城県仙台市に拠点を構える農業法人、舞台ファーム。野菜やお米の生産・販売だけでなく、農産物の加工から販売まで幅広く手掛けています。それに加え、全国の農家に対して農業経営に関するコンサルティングも行っています。

 
さらに、宮城県美里町には、国内最大級の植物工場「美里グリーンベース」があります。独自の栽培システムと最先端テクノロジーにより、季節を問わず、1日3~5万株もの高品質なレタスを栽培・供給しています。

 
仙台X-TECHイノベーションアワード2025会場

 
今回、舞台ファームは仙台市が運営する、「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」の課題解決プログラムに取り組みました。

 
「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」は、AIやIoTなど先端IT技術とさまざまな産業の掛け合わせ(X-TECH:クロステック)で新たな事業創出を促進し、地域の先端IT人材の育成・交流を通じて、仙台・東北地域の豊かな未来を目指す取り組みです。

 
2024年度からはAIの活用に加え、データの利活用にも注目。「データインフォームド(Data Informed)※」というアプローチで地域企業のビジネス変革を推進し、付加価値の高い事業創出と人材育成を一体的に進めています。

 
※「データインフォームド」とは、データを活用しつつ、経験、潮流、組織文化、顧客の声などを組み合わせて合理的に意思決定を行うアプローチ。デジタル庁が掲げるデータに関する「3つの原則」のひとつです。

 
 
SENDAI X-TECH INNOVATION PROJECT バナー

 
仙台X-TECHイノベーション プロジェクトについてはこちら
https://bd.techplay.jp/sendaixtech

舞台ファームが参画した、仙台X-TECHのPBLとは?

仙台 X-TECH イノベーションアワード2025で「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」について説明している様子

 
「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」では、7年目となる2024年度に初めてPBL(Project-Based Learning)型のプログラムを導入しました。このプログラムでは、企業が抱える課題に対し、支援者がチームで伴走しながらAIやデータを活用した解決策を模索します。

 
PBLには、舞台ファームのほか、株式会社ホテル佐勘やお茶の井ヶ田株式会社など、仙台に馴染みのある企業が参画しました。チームは、AI・データ活用に精通した地域コーディネーター、AI inside株式会社のプロジェクトメンター、公募で集まった社会人や学生5名程度で構成されました。

 
そして、その成果発表の場である「仙台X-TECHイノベーションアワード2025」が開催されました。舞台ファームの取り組みは、一体どのような内容だったのでしょうか。

 
AI・データ利活用PBLのスケジュールの説明をしている様子2024年11月のキックオフから約4ヶ月。一体どのような発表が行われるのでしょうか。

世界初! レタス生育管理AI化プロジェクト

舞台ファームが「レタス生育管理AI化プロジェクト」を発表している様子

 
舞台ファームがかねてから抱えていた課題は、現在、環境データの取得はできているものの、それを活用したレタスの生育予測が実現していないことでした。オランダなどの農業先進国でも同様の技術は発展途上であるため、X-TECHのPBLを通じて、世界初となるAIを活用した新しい管理手法の確立に挑戦しました。

 
この挑戦を支えたのは、東北大学の学生からAIのエキスパートまで、多様なバックグラウンドを持つチームです。舞台ファームと連携し、植物工場におけるデータ活用の高度化を目指しました。

 
発表している舞台ファームの吉永さん発表には舞台ファームの吉永さんも参加

 
課題解決のために考えたアプローチは、「環境データから予測するAIを開発し、改善を重ねること」でした。具体的には、画像からレタスの重量を予測するAIと、光量や気温に合わせてレタスの生育に最適な環境を予測するAIの2つを開発し、テストを繰り返すことで予測精度を高めていきました。

 
ダッシュボード化した予測データのイメージ

 
PBLを通して得られた結果をもとに、今後はAIによる生育予測精度をさらに高めていきます。また、予測データをダッシュボード化し、誰でもわかりやすいインターフェースで表示できるようにするとともに、実際に働く従業員とともに改良を重ねていく予定です。

最優秀賞を受賞! メンバーはそれぞれ新たな一歩を踏み出す

プレゼンテーションの後、審査結果が発表され、舞台ファームのチームが見事に「X-TECHイノベーションアワード最優秀賞」を受賞しました。データ活用を通じて、新しい農業の形を模索する姿が評価されたとのことです。

 
参加者全員集合の様子真ん中に舞台ファームのチームがいる舞台ファームのチームが最優秀賞を受賞した。

 
舞台ファームを支援したチームの皆さんにPBLに参加した感想をお伺いしました。

 
「これから仙台で働くにあたって、一次産業の課題に関して何か手伝えないかと思っていましたが、どう踏み出せばいいか悩んでいました。今回が非常に良い一歩になりました」

 
「最初はデータ分析の知識がなく、試行錯誤をしながら進めていきましたが、開発を進めるうちに知識が深まり、どんどん楽しくなってきました。舞台ファームさんとも協議を重ね、お互いの知識を交換するうちに、会話がスムーズになり、一気に分析が進んでいきました」

 
「大学入学からの6年間を仙台で過ごして、春に就職で離れることになりました。こうして地元に貢献できる機会をいただけて嬉しかったです」

 
舞台ファームは今後、仙台のIT企業・匠ソリューションズ株式会社と合同でプロジェクトを進めていく予定とのことです。

 
メンバーの皆さんの充実した姿を見て、これからの活動がますます楽しみになりました。

 
最優秀賞を受賞した舞台ファームの皆さん、真ん中に吉永さんがいる

PBLに参加して得られた成果と学び

左:株式会社舞台ファーム 未来戦略部 吉永 圭吾さん、右:株式会社舞台ファーム 取締役営業本部本部長 針生 信洋さん

 
発表にも参加された吉永さんと、針生さんに、PBLに参加した感想をお伺いしました。

  • 吉永さん:プロジェクトを精度の高いクオリティに仕上げられたのは、支援チームとの連携がうまくできていたからだと思います。自分もチームの一員として、現状の課題を伝えたり、逆に支援者側が持っているアセットを教えてもらったりといったことを、4カ月間ずっと積み重ねてきました。それが今回の開発成果につながったのだと思います。
    前日もみんなでプレゼンの練習をしていたのですが、支援者だけでなく、支援される企業も積極的にコミットすることで、支援者にもその熱量が伝わり、チーム全体が盛り上がったのではないかと感じています。企業側が主体性を持ってプロジェクトに取り組む姿勢は、非常に意味があったと思います。

  • 針生さん:経営側の立場からすると、研究開発はどういった成果が出るかが分からないので不安も多いのですが、今回PBLに参画してみて、恐れずに一歩踏み出す勇気が大切だと感じました。チームの参加メンバーや企業側も、そのような姿勢を持ち続けることが、うまくいく秘訣だと思います。今回は成果が出て、大変嬉しく思っています。

「未来を創る舞台人」農業の枠を超えた、新しいキャリアの形

SENDAI SIDEでは、インタビュー場所を舞台ファームの美里グリーンベ-スに移して、針生さん、吉永さんにお話を伺っていきます。挑戦を続ける舞台ファームでの、従来のイメージする「農業」の枠を超えた新しいキャリアの形を探っていきます。

 
美里グリーンベース工場の内部全体の作業の約90%は機械での自動化を実現しており、収穫に関しては人の手で丁寧に行っているそうだ

  • SENDAI INC.:舞台ファームの職場環境が他の企業と違うと感じる点はどんなところでしょうか?

  • 吉永さん:舞台ファームの大きな特徴は、若手が活躍しやすい環境が整っていることです。経営陣との距離が近く、意思決定のスピードが速いため、提案が通りやすく、実際に行動に移すまでの時間が短いです。例えば、未来戦略部のメンバーのほとんどが20代で、それぞれの得意分野を活かしながら、会社の成長とともに自分自身も成長しています。

  • 針生さん:役職に関係なく普段から会話をする機会が多いですし、Slackなどのデジタルツールを活用することで、円滑なコミュニケーションを取っています。

 
美里グリーンベース工場内でインタビューを受けている針生さん針生さんは、仕事をするうえでコミュニケーションを非常に重視しているという

  • SENDAI INC.:確かに、先ほど工場の中を拝見させていただきましたが、若い方がたくさん働いていたのが印象的でした。若手社員でも責任ある仕事に挑戦できると伺いましたが、実際はいかがですか?

  • 吉永さん:そうですね。舞台ファームは、植物工場をはじめ、新しい取り組みが非常に多く、新規事業が次々と立ち上がる会社です。その際、必ずしも経験のある人がリードするわけではなく、若手社員にも大きな裁量権が与えられ、早い段階から責任ある仕事を任される環境があります。
    例えば、私自身も新卒入社後すぐにIT化プロジェクトを担当し、自由度の高い環境で試行錯誤しながら業務を進めることができました。このように、挑戦の機会が豊富にあることが、舞台ファームの大きな魅力の一つでもあります。

 
美里グリーンベース工場内でインタビューを受けている吉永さん吉永さんも入社早々にプロジェクトを任されて、たくさん経験を積んだという

  • SENDAI INC.:他の企業では、新卒入社ですぐに新規プロジェクトに携わる機会はなかなかないですよね。これまでにない新しい仕事を提案し、実現できた事例があれば教えてください。

  • 針生さん:例えば、以前は紙ベースで管理していたデータを、OCR技術を活用してデジタル化し、RPAで自動処理を行う仕組みを構築するという改善事例があります。ただ、最初から順調に進んだわけではありません。導入当初は、データの読み込み数に制限があることを知らず、思わぬ高額な費用が発生してしまいました(笑)。

  • 吉永さん:私のことですね(苦笑)。当時は「もう終わった……」と血の気が引きました。それでも、こうやって失敗を受け入れてくれ、応援してくれていることに感謝しています。

  • 針生さん:失敗の数は他社よりも圧倒的に多いかもしれませんが、その分、PDCAを素早く回し、改善や次の挑戦につなげている自信があります。社員一人ひとりが失敗を恐れずに挑戦することが大切ですし、そのためにも挑戦しやすい雰囲気をつくることが重要です。私自身も、積極的にコミュニケーションを取りながら、そうした環境づくりに努めています。

  • SENDAI INC.:今後、農業はどんな未来になっていくと思いますか?

  • 針生さん:農業の未来を考える上で、需給のバランスを適切に管理することが重要です。現在の農業では、供給が過剰になると価格が下がり、農家の収益が安定しないという課題があります。一方で、夏場のようにレタスの生産が難しい時期には、品質に関係なく価格が高騰してしまいます。しかし、データを活用することで、全国の生産状況や消費動向を正確に把握し、適正な価格で販売することが可能になります。さらに、冷蔵庫や健康管理デバイスと連携することで、個人の食生活データを活かし、需要に応じた生産ができる時代が訪れると考えています。

 
工場内で育てているレタス1日約5万株のレタスを出荷し、我々の食卓を支えてくれている

  • SENDAI INC.:なるほど、農業とITはますます不可分な関係になっていきそうですね。そのような状況で、舞台ファームとしてはどのような展望を描いていますか?

  • 吉永さん:舞台ファームが取り組む生産管理システムは、環境データを活用して収量を予測し、生産を最適化する仕組みです。将来的には、この仕組みを他の農産物や畜産業にも応用し、農業全体の効率化を図ることを目指しています。

  • 針生さん:こうした仕組みが先行しているのは、オランダやイスラエルといった国々ですが、アジアではまだ確立されていません。気温や湿度が高い地域での事例は少なく、日本から新たなモデルを生み出すことに大きな可能性と面白さを感じています。農業の発展に貢献するため、国内外の事例を研究しながら、より精度の高い生産予測システムを構築していきたいです。

 
工場内でインタビューを受けている向かって左から針生さんと、吉永さん

  • SENDAI INC.:舞台ファームのように、地域でも先進的な取り組みを積極的に行う企業で働きたいという方もいらっしゃると思います。そのような方々に向けてメッセージをお願いします。

  • 針生さん:舞台ファームでは、自動化を積極的に進めていますが、あくまでも人を中心に考えることが前提としてあります。食べ物をつくることへのプライド、人とのつながり、働きがいを大切にし、それらを軸にした企業文化を築いています。私たちの思いや取り組みに共感し、挑戦したいと感じてくれる方はウェルカムです。
    スキルの有無よりも大切なのは、コミュニケーション能力や取り組む意欲です。積極的に学び、挑戦し続ける姿勢こそが成長につながりますし、スキルは後からついてきます。

  • 吉永さん:異文化に触れた経験がある人は、幅広い視点を持ち、活躍する傾向があると感じます。留学でなくても、異なるコミュニティに飛び込んで新しい価値観に触れることは、どんな仕事においても役立つと思います。
    未来戦略部にも多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっています。特に条件を設けたわけではないのですが、不思議ですよね。話題の引き出しが多い人は、どんな場面でも強いものです。学生のうちにさまざまな文化に触れ、多様な経験を積んでおくのも良いかもしれません。

  • 針生さん:私たちの仕事は、単に作物を育てることではなく、食の未来を創造することです。自分の手で何かを生み出し、それが人々の生活に直結する、やりがいのある仕事です。ぜひ一緒に挑戦していきましょう!

 
工場内で生産しているレタス風景が背景の針生さんと吉永さんの様子

 
「自分がつくったものを食べてもらって、笑顔になってくれることが一番嬉しい。こんな仕事は他にはない」と語る針生さんの姿が印象的でした。ITと農業の新しい未来とキャリアが舞台ファームからどんどん生まれて来るのでは? と、ワクワクしました。

 
舞台ファームでは、働く人を紹介するオウンドメディア「舞台裏」を掲載しています。ぜひ、こちらも併せてご覧ください。

PROFILE

株式会社舞台ファームは、宮城県仙台市若林区に本社を構える農業生産法人です。「未来の美味しいを共に創る。」を理念に掲げ、高度な栽培技術と最新設備を駆使した野菜・米の生産、カット野菜などの加工販売、農業コンサルティング、再生エネルギー事業などを展開。食と農の未来を担う総合アグリビジネスのフロントランナーとして、食の安心・安全・安定を追求しています。

美里グリーンベ-ス

Photo:SENDAI INC.編集部
Words:かさまつ ひろこ