12/02MON

PEOPLE

ITの枠を越え、
ワクワクを生み出す
クリエイター集団。
ビジュアルデザインスタジオWOWに聞く、
仙台・東北を舞台にしたITの楽しみ方。

ITというと、一部の人だけが理解できる専門的な技術というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、今は私たちの生活のいたるところにITが浸透しています。

 
例えば、漫画の制作は手描きからペンタブレットに手段が変わり、読者も本ではなくスマートフォンなどで読むスタイルが主流になってきています。このように、ITは私たちの日常に新たな変化をもたらしました。生成AIの登場によって、今後さらにITが進化していけば、私たちがこれまで想像もできなかった体験ができるようになるでしょう。

 
ITと私たちの暮らしの距離が近くなるなかで、ビジュアルデザインスタジオWOW(ワウ)仙台オフィスでは、東北の文化や暮らしの営みに着目し、それをITで新しい体験として落とし込む作品を多く発表しています。今回は、仙台・東北という地域とどのように向き合い、ITをどのように融合させているのか伺いました。

WOWが進化する理由は、挑戦から生まれるオリジナル作品

左から船津 武志さん、梅田 優弥さん、田畑 育実さんが座ってインタビューを受けている姿左から、Director / Design Engineer 船津 武志(ふなつ・たけし)さん、Programmer 梅田 優弥(うめた・ゆうや)さん、Project Manager 田畑 育実(たばた・いくみ)さん

  • SENDAI INC.:本日はWOWさんの仙台オフィスにてインタビューをさせていただきます。よろしくお願いいたします。早速ですが、WOWさんについて教えてください。

  • 田畑さん:WOWは1997年に仙台でCG映像プロダクションとして創業しました。TVCMなどのCG映像制作からスタートし、その後、空間インスタレーション(*)やアプリケーション開発、ユーザーインターフェースのデザインなど活動の幅を広げてきました。「目に映るすべてをデザインの対象」と捉え、既存のカテゴリーにとらわれない作品制作を追求している会社です。

    *インスタレーション:ある特定の室内や屋外などにオブジェや装置を置いて、作家の意向に沿って空間を構成し変化・異化させ、場所や空間全体を作品として体験させる芸術(出典:Google Arts & Culture サイトより)

  • 船津さん:例えば、TV番組のオープニング映像やCMといったメディアに流れる映像だけでなく、センサーによる動きの感知を活用した空間演出のインスタレーションなども手がけています。作品制作には、デザインからプログラミング、映像と連動した音づくりまで、一貫して取り組みます。クライアントワークだけでなく、オリジナルの作品制作を続けているのも弊社の特徴の一つです。

 
インタビューを受けている田畑さん田畑さんは、クライアントやデザイナー、プログラマーとコミュニケーションをとりながらプロジェクトのマネジメントを担当している

  • SENDAI INC.:ITを駆使したWOWさんの空間づくりは壮大でとても感動的なものが多いです。作品づくりで大切にしていることは何でしょうか?

  • 梅田さん:オリジナル作品では、制作者の興味のある分野や社会問題からテーマを決めて作ることが多いです。また、最新技術にも挑戦することを心がけています。クライアントワークではチャレンジしづらいテーマや技術に時間をかけて取り組むことが、自分たちの成長につながります。

  • 船津さん:テーマについてしっかりと下調べをして、歴史や文脈をきちんと理解するようにしています。単に派手なものを作るのではなく、テーマの意味や想いを大切にしています。

心を打つ、地元の歴史・文化と最新技術の融合

梅田さんがインタビューに答えている姿梅田さんはプログラマーとして、映像やアプリなどさまざまなデザインをプログラミングで表現している

  • SENDAI INC.:WOWやITに関わる仕事に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

  • 梅田さん:アニメや広告を見て心を動かされ、映像の世界に興味を持ち始めました。当初はCGデザイナーになりたくて大学に進学したのですが、実際に勉強してみるとあまり肌に合わず……。たまたま授業で習った、プログラミングによる映像制作が自分にはしっくりきたので、その時からプログラマーを志望するようになりました。

  • 船津さん:高校では電気・電子系の学科に在籍していたので、プログラミングをしたり、回路を作ったりしていました。当時は物理学や医療工学に興味を持っていましたがデジタルやテクノロジーを活用したメディアアートの盛り上がりを感じて、この業界に関わりたいと思うようになりました。

 
船津さんがインタビューに答えている姿船津さんはディレクターだけではなく、デザインエンジニアとしてデザインとプログラミングのどちらも担当している

  • SENDAI INC.:ITを使ったインスタレーションづくりができる会社に就職するとなると、どうしても東京が中心になると思います。WOWの仙台オフィスを選んだ理由があれば教えてください。

  • 梅田さん:私は青森県出身で、新卒で就職しました。最初は東京の方が技術進化のスピードが早く、得られるものが大きいと考えていました。一方で、東北という自分のルーツから離れたくないという思いもありました。WOW仙台への入社を希望したのは、東北の古くからある郷土芸能と現在の新しい技術を組み合わせた作品に感動したからです。

  • 船津さん:私は中途採用で入社しました。群馬出身なので、東北にゆかりはありませんでした。以前は東京で働いていましたが、WOWへの転職を希望したところ、仙台に席が空いていたので、配属されました。

  • SENDAI INC.:仙台に住んでみて、いかがですか?

  • 船津さん:めちゃくちゃ良いです!(笑)
    出張で月に何度か東京へ行くのですが、新幹線に乗って1時間半で東京に着く距離感も良いですよね。住み始めて3年目になりますが、気候もちょうど良く生活環境も心地よいので、仙台を離れたいと思ったことはないですよ。

  • 田畑さん:私は二人とは違って、宮城出身です。 震災を経験したことで、地元に貢献したいと考えていました。新卒でライトアップデザイナーとして別の会社に就職しましたが、心のどこかで仙台で何かできることはないかと考えていました。そのなかでも、もっと地元に根差した作品づくりや仙台から素晴らしい作品を世の中に届ける仕事をしたいと思って、WOWに転職しました。

拠点にとらわれず、全国のクライアントワークに取り組める

「JERA museum HEKINAN」は、ゼロエミッション火力発電の最先端に触れられる体感型ミュージアム

  • SENDAI INC.:WOWさんのこれまでの作品を教えていただけますか?

  • 田畑さん:弊社はメディア媒体のほか、空間演出・インスタレーション・UI/UX・サウンドデザインなど多種多様なクライアントワークに携わっています。なかでも、発電会社の株式会社JERAが取り組む「JERA museum HEKINAN」は、仙台のメンバーが携わっています。

  • 船津さん:発電会社である株式会社JERAの地域共生施設「JERA museum HEKINAN」のリニューアルオープンに際し、WOWは常設展示となる全4コンテンツの企画・演出・制作を担当しました。企画から始まり、約1年をかけて制作した大きなプロジェクトです。施設は愛知県にありますが、こうして仙台に拠点を持ちながら全国の大きな案件に携わることができています。

 
JERAのタッチパネルディスプレイを体験している様子世界や日本の各地に広がるJERAのさまざまな事業やプロジェクトを紹介

 
体験型展示で双眼鏡型の什器を動かすことで、カルガモを観察しながら学んでいる様子双眼鏡型の什器を動かすことで、さまざまな野鳥を観察しながら学べる体験型展示

お面を身につけ、東北地方の郷土芸能を体感する「BAKERU」

“BAKERU – Transforming Spirits -” JAPAN HOUSE LA Exhibition

  • SENDAI INC.:ここからは、東北を題材にしたオリジナル作品について、さらに詳しくお伺いさせてください。

  • 田畑さん:WOWではクライアントワークだけでなく、オリジナルの作品づくりも行っています。仙台オフィスでは、東北や宮城の文化的な風習を題材にした作品を制作しており、代表作として「BAKERU(バケル)」があります。

    BAKERUは2017年に制作した作品で、東北地方に古くから伝わる郷土芸能をテーマにした体験型のインスタレーション作品です。お面を身につけることで、スクリーンの中の自分の姿が変化し、太古から続く“化ける”行為と芸能をモチーフとした映像の世界をインタラクティブに体験することができます。

特別授業『バケルの学校』の様子

  • 船津さん:現在、文化庁の学校巡回公演事業として「BAKERUの学校」を全国の小学校で行っています。子どもたちに郷土芸能を継承しつつ、IT技術に触れるきっかけになれば嬉しいです。言葉や映像だけでなく、体感しながら学べる作品へ落とし込むことは、弊社ならではの取り組みだと思います。

最新技術だけでない、実体験が生む人を引きつける表現

インタビュー中、お面を被りBAKERUを体験している様子お面を被ると、自分の分身のようなキャラクターが現れる

  • SENDAI INC.:BAKERUでは、どんなIT技術が使われているのでしょうか?

  • 梅田さん:基本的には、CG(コンピュータグラフィックス)とプログラミングの2つで構成されています。CGとプログラミングを組み合わせるために、ゲームエンジンの「Unity(ユニティ)」というソフトウェアを使用しています。また、モーションセンサー「Kinect(キネクト)」が体験者の動きを検知すると、映像内の体験者の姿も連動して動きます。

    特に、動きに合わせてリアルタイムに変化するアニメーションの表現が難しかったです。デザイナーが求めるクオリティにどこまで近づけられるか、プログラミングの試行錯誤を重ねました。

 
3名のお面を被った人が動いている様子人の動きをセンサーが検知し、スクリーンのCGが同じように動く。WOWはITを駆使し、今までになかったクリエイティブな体験を提供している。

  • SENDAI INC.:BAKERUの作品づくりでこだわった部分を教えてください。

  • 梅田さん:制作に携わったメンバーによると、日本各地にはさまざまな郷土芸能がありますが、後継者不足や震災などの災害で土地や道具が失われて、郷土芸能を続けていくことが難しくなっているものもあります。
    秋田のなまはげは悪いものを追い払ってくれる存在であり、岩手の鹿踊りは亡くなった方を慰める存在だといいます。そんな願いや意味を、作品を通じて子どもたちに伝えていきたいという強い想いがあったのだと思います。

  • 船津さん:WOWではリサーチを大切にしていて、実際に体験しながら作品づくりに取り組みます。表面的にデザインをなぞるだけでは、衣装の模様や色に込められている意味を理解できませんし、踊りの細部の動きなども忠実に表現できません。実体験を伴っているからこそ、見る人を引き込む作品を生み出せるのではないでしょうか。

東北の「ハレの日」が一堂に会する圧巻の作品「祝彩風祭」

「祝彩風祭」の紹介動画

  • SENDAI INC.:「祝彩風祭」はどんな作品でしょうか。

  • 田畑さん:WOWの25周年記念展にて発表した、東北の祝い事や祝祭行事をテーマにした映像インスタレーション作品です。お祝いにちなんだ縁起の良い文化として「祭り」をテーマに選びました。東北に古くから伝わる“ハレの日”の風習を、新たな視点と解釈を加えて再構築することに挑みました。

  • 梅田さん:東北の祭りや踊りなど、8つのシーンが一堂に会する世界をつくり、その中を駆け巡るような映像構成になっています。左右と正面に大きなスクリーンの壁があり、没入感を楽しめる作品です。

リアルな人の動きから、表現を加速させる

インタビュー中ディスプレイで祝彩風祭の映像を見ている様子奥行き15メートルにわたる空間の壁面に、コの字型のプロジェクション演出がされている

  • SENDAI INC.:祝彩風祭では、どんなIT技術が使われているのでしょうか?

  • 梅田さん:こちらもCG作品です。ねぶたや神輿は実際の祭りで使用されたものです。フォトグラメトリという手法で、様々な角度から撮影した画像から3Dモデルを作成しました。形状・質感など細やかな部分まで再現できています。踊りのアニメーションは、本物の踊り手さんの動きを収録して制作しました。指先のしなやかな動きや、全身から湧き出る躍動感は、CGだけでは表現できません。最初は、AIを使って踊りの映像からモーションを作ろうとしましたが、ふわふわとした動きになってしまい、うまくいきませんでした。
    最終的には、踊り手さんに磁気センサーと加速度センサーを搭載しているモーションキャプチャーを取り付けてキャプチャーを行いました。

  • 船津さん:BAKERUと同じくゲーム制作用のソフトウェアを使用していますが、Unityではなく「Unreal Engine(アンリアルエンジン)」を使っています。Unreal Engineの使用は初めての試みでしたが、祭りの臨場感をリアルな質感で表現するために必要だったので、勉強しながら制作を進めていきました。

    大量のモデルがリアルタイムで動きながらさらに天気が変わって雨が降ったり、床が濡れて反射したりします。何気ない演出ではありますが、実はUnreal Engineを使わないと実装が難しい表現です。

  • 田畑さん:音楽も実際のお祭りを参考に、サウンドデザイナーが制作しており、お祭りのシーンに合わせて音楽も変化するようになっています。他にも新しい試みにたくさん挑戦していますので、全て説明したいのですが、時間が足りませんね(笑)

 
祝彩風祭の映像インスタレーション作品を人が鑑賞している様子大きな壁に映し出される迫力ある祭りの映像は、実際に体感するとさらに圧巻だ

  • SENDAI INC.:もっとお話を伺いたいのですが、残念です。すごく壮大で素敵な映像作品なので、また機会があれば体験してみたいです!
    では、皆さんの今後の目標を教えてください。

  • 梅田さん:AIのような便利な技術が次々と生まれており、クライアントからの依頼内容もレベルアップしています。しかし、複雑な表現に凝りすぎると、本質的なことが伝わりづらくなってしまうので、根幹の部分をしっかりと探求し理解したうえで、表現できるようになりたいです。また、IT業界には技術を発信し合い、共に高めていく文化があります。自分も何か発信していけたらいいなと思っています。

  • 船津さん:私はデザインとプログラミングの両方に軸足を置きながら、視覚表現の探索をしています。プログラムも理解できるからこそ生み出せるビジュアル表現ができればいいなと思っています。

  • 田畑さん:私はデザイナーでもプログラマーでもないので、実際に作品をつくるわけではありませんが、クライアントやその先にいるお客さんが作品を体感し、目を輝かせている瞬間に立ち会うと感動します。多くの方に「今の技術ってこんなにすごいんだ!」「もっと郷土芸能を知りたい」といった新たな発見や興味を作品を通じて届けられるよう、今後もプロジェクトのサポートを続けていきたいです。

 
左から船津さん、梅田さんが笑っている様子目標は三者三様。個人の多様性もWOWの魅力だ

ITへの道は人それぞれ。視野を広げ、好きなことに打ち込むことが大切

  • SENDAI INC.:SENDAI INC.はITに関わる方や学生さんが多くご覧になります。最後に、ITを学びたい方へアドバイスやメッセージがあれば、お願いいたします。

  • 船津さん:自分の好きなものからIT分野に入り込んでいくのがおすすめです。
    具体的に作りたいものがない状態でいきなりプログラミングの本を読んでも、モチベーションの維持が難しいと思います。身近な興味や発見からプログラミングの勉強を始める方が、続けやすいのではないでしょうか。

  • 梅田さん:プログラミングを続けていると何度も壁にぶつかりますが、その解決の糸口はプログラミングの知識だけではありません。鳥の動きが上手くプログラミングできなかったときに、羽の動きを観察したり、鳥の視点を探求したりすることで、壁を打ち破るヒントを得られたことがあります。IT以外のことにも興味を持ち、視野を広げていってほしいです。

  • 田畑さん:私は基本的なマネジメント業務なので特別な技術を持っていませんが、それでもサポートを続けていると仲間から「ありがとう」と言ってもらえることがあり、とても嬉しいです。デザインやプログラミングができないからといって、夢を諦めないでほしいです。裏方として活躍している方もたくさんいます。業界を深掘りすると多くの職種があることに気づくと思うので、視野を広げてIT業界を目指してほしいです。

 
【まとめ】
ITへの道は人それぞれ。視野を広げ、好きなことに打ち込むことで、新たな発見が生まれてくることがわかりました。そして、東北・仙台だからこそできる映像表現の可能性を感じました。WOWさんの作品が気になる方は、ぜひWOWさんのWebサイトYouTubeなどをご覧ください。

 
Photo:寺尾佳修
Words:かさまつ ひろこ

PROFILE

人々の心に躍動を生み出す——WOW は、このミッションに2 つのアプローチで挑んでいる。 1つはクリエイティブコレクティブとして、個性溢れるクリエイターたちが独自のテーマや表現方法を探求し、作品づくりを行っている。 もう1 つは、ビジュアルデザインスタジオとして、知性と感性のダイアローグをクライアントと重ね、映像・インスタレーション・UI/UX など、最適化や効率の追求からは生まれてこない豊かな表現として共に紡ぎ出している。