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PEOPLE

コードより、こころにふれる、ICT
~テクノロジーを“自分ごと”にする学びの場

AIやデジタル技術が急速に広がるいま、子どもたちにとってICTなどのテクノロジーは特別なものではなく、身近なツールになりつつあります。一方で、その使い方や楽しみ方を学べる場の充実度は、地域によって差があります。
仙台を拠点に活動するICTてらこやは、「ICTで遊び、学び、つながる」をビジョンに掲げ、子どもたちがテクノロジーに触れながら挑戦できる場づくりを続けてきました。2024年4月には一般社団法人化し、活動の幅も広がっています。 なぜいま、仙台・東北でこうした取り組みが求められているのでしょうか。ICTてらこやを立ち上げた「親方」こと荒木義彦さんに、その思いを聞きました。


子どもたちからは親しみを込めて「親方」と呼ばれている荒木さん子どもたちからは親しみを込めて「親方」と呼ばれている荒木さん

震災をきっかけに、東北で始まった「ICTてらこや」

  • SENDAI INC.:まず、「ICTてらこや」の活動について教えてください。どのような経緯で始まったのでしょうか。

  • 荒木さん:もともとは2015年に、福井で始まった「PCN(プログラミングクラブネットワーク)」という子ども向けプログラミングコミュニティに関わったことがきっかけでした。私は福島県いわき市の出身なのですが、東日本大震災を経験して、地域のコミュニティや子どもたちを取り巻く環境が大きく変わっていくのを目の当たりにしました。

    その中で、「これからの時代を前向きに生きていく子どもたちを育てたい」という思いが強くなったんです。テクノロジーは、子どもたちの可能性を広げる大きな力になる。


東北の子どもたちに、もっと挑戦の機会を

  • SENDAI INC.:東北と東京にはIT・ICTの格差があると言われることもあります。第一線の現場で活動する荒木さんから見て、東北にはどのような課題があると感じていますか。

  • 荒木さん:東北は都心部と比べて人口が少なく、プログラミング教室やITイベントの数も限られています。
    そのため、子どもたちが新しいことに触れる機会は、どうしても都市部より少なくなりがちです。また、公立学校が多い地域では先生の異動も多く、学校で始まった取り組みが継続しにくいという問題もあります。

  • SENDAI INC.:確かに、子どもが自力で通える範囲に教室やイベントがないと、親が送迎する必要があります。保護者の負担も大きくなりますね。

  • 荒木さん:そうですね。アクセス面のハードルは大きいと思います。
    さらに、そうしたハードルを乗り越えて子どもたちがスキルを身につけても、それを発表するコンテストなどの場は、東京に集中していることが多いんです。東北の子どもたちにとって、参加すること自体が簡単なことではありません。

  • SENDAI INC.:だからこそ、荒木さんは東北にこだわって活動を続けていらっしゃるのですね。

  • 荒木さん:環境面での問題はありますが、東北の子どもたちの可能性は本当に大きいと感じています。
    実際にICTに触れる機会をつくると、大人が驚くようなアイデアやスキルを見せてくれることも多いんです。
    だからこそ、地域の中で子どもたちがのびのびと挑戦できる場をつくることが大切だと思っています。

ものづくりを楽しみ、実践する場「とうほくプロコン」を実施


  • SENDAI INC.:そうした課題を踏まえて、子どもたちの発表の場として「とうほくプロコン」を開催されていますね。

  • 荒木さん:子どもたちがプログラミングやものづくりを学んでも、それを発表する舞台がないと、なかなかモチベーションは続きません。
    そこで、東北の子どもたちが自分たちの作品を発表できる場として「とうほくプロコン」を立ち上げました。

  • SENDAI INC.:とうほくプロコンについて教えてください。

  • 荒木さん:「学校生活がもっと楽しくなるツール」や「魚好きを増やす」などのテーマを設け、テクノロジーの力で「ヒミツ道具」を作って発表する場です、と言うとイメージしやすいかもしれません。

  • SENDAI INC.:例えば、どのような作品があるのでしょうか。

  • 荒木さん:とうほくプロコン2025では、小学6年生3人のグループが制作した「ボタンを押すだけで誰でもできるエサやり機」という作品がありました。
    理科の先生の「魚のエサやりが大変なんだよね」という一言がきっかけとなり、その問題を解決するために子どもたちが考えたアイデアです。

    自分の身の回りにある困りごとから発想し、それを形にして発表する。
    そして、その作品を大人や仲間に見てもらう。
    そうした経験は自信につながるだけでなく、「もっとやってみたい」という次の挑戦のきっかけにもなります。


  • SENDAI INC.:実際に参加した子どもたちの反応はいかがでしょう。

  • 荒木さん:とうほくプロコンに参加した子どもが、その経験をきっかけにITの道に進んでいくケースも出てきています。
    たとえば、徳島県にある「神山まるごと高専」に進学した子もいますし、かつて参加者だった子どもが、今度はイベントの運営側として関わってくれるようになった例もあります。
    そうした循環が少しずつ生まれてきているのは、とても嬉しいですね。

  • SENDAI INC.:ICTてらこやの掲げる「ICTで遊び、学び、つながる」というビジョンを、まさに体現する取り組みですね。

  • 荒木さん:そうですね。ICTてらこやも、単にプログラミングを教える場ではなく、子どもたちが挑戦し、つながり、成長していくコミュニティでありたいと思っています。
    東北の子どもたちには本当に大きな可能性があります。だからこそ、その芽を伸ばす機会を地域の中でつくっていくことが大切だと感じています。

「プログラミング=難しい」を書き換える

  • SENDAI INC.:ICTてらこやでは、プログラミング教育にも力を入れていますが、「プログラミング」という言葉に難しいイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。

  • 荒木さん:そうですね。「プログラミング」というと、パソコンの前に座ってコードを書く難しい技術、というイメージを持つ方も多いと思います。でも実際には、プログラムは私たちの身の回りにたくさんあります。

    例えば電子レンジや洗濯機、スマートフォンなど、日常で使っているさまざまな機械の中にプログラムが組み込まれています。そう考えると、プログラミングは特別な技術というより、暮らしを便利にするための道具の一つだと捉えることもできるのではないでしょうか。

  • SENDAI INC.:そう聞くと、プログラミングがぐっと身近なものに感じられますね。
    ICTてらこやでは、プログラミングを通して子どもたちにどんな力を身につけてほしいと考えていますか。

  • 荒木さん:大切なのは、コードを書く技術そのものよりも、「目の前の不便をどう解決するか」を考える力だと思っています。

    例えば「こういうものがあったら便利だよね」とか、「この問題をどうやったら解決できるだろう」と考える。
    そのアイデアをプログラミングやものづくりを使って形にしていく。
    そういうプロセスを経験することが、これからの社会ではとても重要になると思います。

「動いた!楽しい!」遊びから始まる学び

  • SENDAI INC.:そのために、どのような場づくりを意識されていますか。

  • 荒木さん:学校の勉強のように知識を覚えることももちろん大切ですが、それだけではなかなか創造力は育ちません。まずは「動いた!」「楽しい!」という体験があることが大切です。

    自分で作ったものが実際に動くと、子どもたちはとても嬉しそうなんですよね。そのワクワクから「どうやったらもっと良くなるだろう」「次はこうしてみよう」と自然に試行錯誤が始まります。
    そうした体験の積み重ねが、挑戦する力や粘り強さにつながっていくのではないかと思っています。

  • SENDAI INC.:だからビジョンでは先に「遊ぶ」がきて、そのあとに「学ぶ」が続くのですね。
    ICTてらこやでは、プログラミングだけでなく、はんだづけや工作なども取り入れていると聞きました。

  • 荒木さん:そうですね。私たちの目的は、プログラマーを育成することではありません。もっと広く言えば、誰かの困りごとをどうやって解決するかを考える力を育てることです。

    プログラミングは、そのためのツールの一つにすぎません。子どもたちが「自分にもできるかもしれない」と感じながら挑戦し、試行錯誤する。その中で問題解決力や創造性が育っていくことが、本当に大切だと思っています。

    だからこそ私たちは、プログラミングだけでなく、はんだづけや電子工作など、実際に手を動かして「作る」体験も大切にしています。

AI時代に必要な「人間の力」

  • SENDAI INC.:これからの時代を生きる子どもたちにとって、プログラミングは必須スキルでしょうか。

  • 荒木さん:言われたことを正確にこなすような仕事は、正直AIがあれば十分になっていく部分もあると思います。
    AIは大量に同じことをこなすのが得意ですから、誰でもできることはどんどんAIに置き換わっていくでしょう。

    だからこそ最終的に残るのは、人間にしかできないこと、人間としての価値。いわば「人間の力」が、これからの時代にはより大切になってくるのではないでしょうか。

    そのうえで、子どもたちに身につけてもらいたいスキルは「変化に対応する力」です。
    社会やテクノロジーはこれからもどんどん変わっていきます。その変化の中で、自分で考えながら行動していける人が強いのだと思います。

    だからこそ、子どもたちが安心して挑戦できる場を、地域の中で長く続けていくことが大事だと考えています。ICTてらこやが、そうした挑戦のきっかけになる場所であり続けられたら嬉しいです。
    そうした子どもたちが育つことで、いずれは仙台・東北のまち全体や、情報産業の未来を支えることにもつながっていくと信じ、ICTてらこやも挑戦を続けていきます。

PROFILE

一般社団法人ICTてらこや

一般社団法人ICTてらこやは、「ICTで遊び、学び、つながる。未来の扉を開く」を合言葉に、あらゆる世代が“好き“や”夢中“に出会い、自ら学び挑戦できる場を創出しています。体験を通して創造力や課題解決力を育み、地域を支える次世代の力へとつなげています。人と人、学びと社会がつながり、新しい価値が生まれ続ける地域の未来を育んでいます。

一般社団法人ICTてらこや

Photo:SENDAI INC.編集部
Words:岩崎尚美