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PEOPLE
可野の部屋出張編
「スタートアップから
上場企業まで数多くの経験を活かし、
経営のプロが取り組む仙台市の
スタートアップ支援とは?」
SENDAI SIDE
SENDAI SIDE
この記事は、SENDAI SIDE(前編)とIT SIDE(後編)の2部構成となっています。
SENDAI SIDEでは、仙台市のスタートアップ支援スーパーバイザー 鈴木さんのこれまでの経験やスーパーバイザーとしての取り組みをお伺いしました。
IT SIDEではスタートアップの支援について、お話を伺っています。
2024年3月にアーバンネット仙台中央ビル(運営;NTT市開発株式会社)が開業し、仙台市のスタートアップ熱が一層高まっています。
今回の可野の部屋は、現在、仙台市のスタートアップ支援スーパーバイザーを務めるTOMORROW COMPANY INC. CEOの鈴木修さんにお話を伺いました。
左:TOMORROW COMPANY INC. CEO 鈴木修さん / 右:エンスペース株式会社 可野沙織さん(インタビュアー)
可野さんは、鈴木さんとスタートアップのイベントで何度もお会いしたことがあるそうで、今回のインタビューでは聞きたいことがたくさんあったのだとか。
上場企業を数多く経験し、国内外で活躍された実体験をもとに仙台のスタートアップやコミュニティについて感じていることを語っていただきました。また、仙台ならではの起業やキャリアの可能性についても教えてくださいましたよ。
圧倒的速度と圧倒的量の経験がキャリア資産をつくる
鈴木さんは仙台出身。東京や海外での経験を地元に還元したいという思いで、仙台のスタートアップ支援をしている。
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可野さん:今回はenspaseを飛び出し、ビジネスの立ち上げから成長に向けた様々な支援をワンストップで提供する「仙台スタートアップスタジオ」にてお話を伺います。ICTを活用した新たなビジネス創出、地域の活性化を目指したこの場所には、コワーキングスペースやシェアオフィスがあります。
現在、「仙台スタートアップスタジオ」も開設され、鈴木さんはこの場所を拠点にプロジェクトに取り組んでいます。
早速ですが、鈴木さんは仙台のご出身だとお伺いしました。どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか? -
鈴木さん:仙台で生まれ育ち、高校卒業後に東京の大学へ進学しました。小さな頃からサラリーマンではなく、医者やファッションデザイナーになろうと思っていたのですが、ちょうどその頃はIT系スタートアップの興隆期でもあり、ファッションを中心にトレンドアイテムを商品開発から販売までインターネットで行うEC事業で、大学在学中に起業しました。今から約25年前の話です。当時はパソコンやクレジットカード決済がまだまだ普及しておらず、オンラインショッピングも一般的ではない時代でした。
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可野さん:ご自身で起業された経験が今のスタートアップ支援につながっているのでしょうか?
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鈴木さん:そうですね。実は、そのEC事業が軌道に乗り始めたタイミングで経営権を譲渡したんです。正確には譲渡せざるを得なくなったのです。
当時の僕はあくまでもやりたいことをやるための手段が起業でしたので、資本政策や株主契約など会社というもの自体に対する関心は強くなく、いつの間にか他の株主に経営権自体を持たれてしまうことになってしまいました。
そうなった時、事業云々ではなく、自分の会社なのに自分の会社に思えなくなってしまったんです。憤りもありましたが、何より自分の未熟さに大きな反省をしました。そして、譲渡することを決意しました。
この生々しい実体験が、その後のビジネス、もっというとスタートアップという世界に生息し続けるきっかけとなり、さらには現在のスタートアップ支援の原体験にもなっています。ちなみに、この時の経験は、その後のビジネスでたくさん遭遇することになる理不尽なことや非合理的なことに対して、何があっても一喜一憂せずに事実を受け入れられるようになりました。精神的なタフさにもつながっています。
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可野さん:事業譲渡後は、どうされたのでしょうか?
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鈴木さん:事業譲渡後はインテリジェンス(現・パーソルホールディングス)に参画しました。「社会に価値ある何かを残す」というミッションに経営者からあらゆるメンバーまでが心底共感し、当時はその実現に向けて様々な事業を生み出しました。まさに肌で感じるほどのエネルギーを持って、全員が仕事をしている姿が印象的でした。先ほどお話しした失敗経験をふまえて、急成長するスターアップはどのように創られているのかを生生しく経験したいということもあり、また、自身をハードな環境で鍛錬しなければならないということからも参画を決めました。
入社後は社長のそばで人事や組織開発の経験を積みました。そこで実学的に学んだことは相当程度あり、簡単には言い表すことはできませんが、スタートアップは並大抵のことでは大きな成功はできないということを身をもって知りました。
学んだことの中で大切なことの一つは、スタートアップで成果を出し続けるためには、圧倒的な速度で圧倒的な量の経験を積むことが必須であるということです。
当然のことながらビジネスには様々な目的、状況、制約、人、気持ち等々の変数があり、その変数をどれだけ経験しているかがキャリアの資産となります。それは、後に遭遇する様々なハードシングスを乗り越える際の目となり力となります。
目となる、というところを補足しますね。経験の種類が多ければ多いほど、その後にハードシングスに遭遇した際、そのハードシングスに過去経験したことが重なり、既視感が生じます。そのため、解像度が高く、ハードシングスの把握やその解決シナリオが見えるようになる、ということです。
スタートアップでは、当初描いた戦略ないしは戦術の80%はめまぐるしく変化することが当たり前です。教科書的な学習だけではそもそも太刀打ちできず、実際の経験によって頭と身体に染みついた目と力という資産によって脊髄反射的に思考し動くことできるようになります。頭で理解できることと実践できることは全くの別物。実践しながら頭と身体に身につけていかなければなりません。
速度と量を意識した経験を積んだ結果、仕事の原理原則に気づくことができたり、先読みする力がついたり、思考やアウトプットの速度がぐんと上がったりします。多くの成長を遂げることができますので、量が質に転化するまで、とにかく圧倒的な速度で圧倒的な量の経験を積むことが大切だと思います。
成功や成長への道のりにショートカットはありません。
東京や海外の経験を地元である仙台に還元したい
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可野さん:その後、起業されたのでしょうか?
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鈴木さん:インテリジェンスの後は、サイバーエージェント、グリーの2社を経験しました。いずれもスタートアップがベンチャー、そしてメガベンチャーへ急成長していくステージの真っ只中にいました。
先ほどスタートアップが大きな成功をするためには並大抵のことではできないとお話しましたが、3社全てでそれを実感しました。同時に、その並大抵なことでは不可能な大きな成功までの長い道のりを、外から支援する存在の重要性も強く感じていました。いつからか、自分がそういった支援する存在になることを意識するようになり、自らが並大抵ではない経験や苦労を重ねる必要があると考えました。経営は当然のこととして、事業開発、組織人事、営業、広報IR、M&A、海外進出など、多岐にわたる分野で経験を積みました。
これらの経験が、スタートアップ支援をするうえでの基盤となり、2013年にTOMORROW COMPANY INC.を設立しました。シードからレイターまで、あらゆるステージのスタートアップのIPO支援をし、IPO後の上場企業の変革支援をしながら、国内海外でエンジェル出資も行っています。また、支援はアドバイスということにとどまらず、ハンズオンで入り込んでの支援も行います。
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可野さん:鈴木さんは仙台市のスタートアップ支援スーパーバイザーも務めてらっしゃいます。仙台市の支援に関わり始めたきっかけや、鈴木さんがどんなことをしているのか教えてください。
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鈴木さん:独立してスタートアップ支援をする中で、地元仙台のスタートアップエコシステム構築にも貢献したいという気持ちが強くなり、東京や海外で仕事をしてきた経験を地元仙台に還元するカタチを考えていました。そんな中で約3年前、知人を介して仙台市や宮城県、地元金融機関などたくさんの方とお会いし、ご相談を受ける機会が徐々に増えていきました。
そして、2023年4月から仙台市のスタートアップ支援のスーパーバイザーとして本格的に携わるようになりました。やはり地方にはスタートアップの創出や成長を実体験をもって精通している人材が少ないため、私の経験を活かした取り組みをしています。仙台市のスタートアップ支援課のみなさんの相談を受け、いかにスタートアップを生み出し育てていくか、いかに地域外の支援者と連携するか、という施策を提案しています。
PROFILE
DIMENSION, Inc.
ミッションは「人・事業・組織に向き合い、まっすぐな志が報われる社会を創る」。真摯に経営に向き合う起業家に創業期から出資し、事業拡大・上場支援を行うVC「DIMENSION」を運営。2019年に組成した1号ファンドは、24社に出資しすでに3社が上場。2022年には2号ファンドを101.5億円にて設立。経営経験豊富な経営陣が、出資だけでなく出資後の経営支援を行うこともDIMENSIONの特徴。
TOMORROW COMPANY INC.
アドバイザーや社外取締役として、スタートアップのIPO実現やIPO後の成長支援、また上場企業の事業変革や組織改革を担う。戦略レベルだけではなく、必要に応じて実務レベルまで踏み込み、スタートアップや上場企業が遭遇する様々なハードシングスを支援先の経営陣とともに乗り越えていく。国内海外を問わずスタートアップやファンドへの投資も行う。
可野 沙織(かの・さおり)
エンスペース株式会社 シニアマネージャー IT企業にて、様々なクライアントのカスタマーサポートセンターを立ち上げ、人材採用から運用構築・サービス改善を責任者として従事。人材育成や組織マネジメントの経験を活かし、宮城県内を中心に若者向けのコミュニティ活動や活動支援を行っている。 エンスペース株式会社では、enspaceのコミュニティマネージャーとして参画し、若手育成・起業家を支援する環境構築、海外事業の新規立ち上げに従事。
鈴木 修(すずき・おさむ)
TOMORROW COMPANY INC. FOUNDER&CEO 。DIMENSION, Inc. Director&General Partner 。大学在学時にマーケティング及びEC領域で起業。その後、株式会社サイバーエージェントの社長室室長、グリー株式会社のグローバル人材開発責任者、株式会社SHIFTの取締役、株式会社ミラティブでのCHROを経て、2021年からDIMENSION株式会社の取締役兼ゼネラルパートナーに就任。2013年に自身で創業したTOMORROW COMPANY INC. / TMRRWでは、アドバイザーや社外取締役として、スタートアップへのIPO支援や上場企業へのチェンジマネジメントを行っている。また、日本及び海外でのエンジェル投資の実績多数。2023年には仙台市スタートアップ支援スーパーバイザー及び宮城県スタートアップ支援アドバイザーに就任し、行政と共にスタートアップエコシステム構築からの地方創生を支援。
仙台スタートアップスタジオ
Photo:SENDAI INC.編集部
Words:笠松宏子