10/27WED

PEOPLE

「地方が盛り上がれば、
仙台も自ずと盛り上がる」
石巻でIT技術者を育成する
『イトナブ』代表が、
仙台×ITの未来を語る

東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市。
当時東京で暮らしていた古山隆幸(ふるやま・たかゆき)さんは、地元の変わり果てた姿に大きな衝撃を受けながらも、「ここから新しく生まれ変わればいい」と一念発起し、石巻でIT技術者を育成する「イトナブ」の活動をスタートします。
震災から10年、石巻からIT業界を牽引し続けてきたイトナブの活動と今後の展開、また仙台×ITの未来についてお話を伺いました。

イトナブの看板から右手と顔を出す古山隆幸さん

  • 古山さん:イトナブは東日本大震災をきっかけに2012年1月、「震災10年後の2021年までに、石巻から1000人のIT技術者を育成する」ことを目標に掲げて活動を開始しました。

    石巻の若者を対象に、IT技術を学ぶ環境を提供しています。

  • SENDAI INC.:現在、イトナブには2つの会社がありますね。それぞれの事業内容は?

  • 古山さん:まず、2013年12月に設立したのが一般社団法人イトナブ石巻。
    こちらでは「教育」事業を担っており、小学生から大学生までを対象にプログラミング研修やデザイン講習、アプリ開発講習などの指導を行っています。

    また、2015年6月に新たに設立した株式会社イトナブでは「制作」事業を展開し、ソフトウェア開発業務やデザイン業務などを行っています。

  • SENDAI INC.:イトナブという社名には、どのような意味が込められているのですか?

  • 古山さん:イトナブは「IT」×「遊ぶ」×「学ぶ」×「営む」×「イノベーション」の造語です。

    イトナブではプログラミングを教えていますが、単なるプログラミングスクールではありません。
    それは、ベースに「遊び」があるからです。

    遊んでいたらもっと学びたくなって、それが次第に仕事になる。そしてその仕事のつながりがやがてはイノベーションを生む、という流れが理想だと思っているんです。

    なのでそうした想いから「イトナブ」という社名が生まれました。

 

株式会社イトナブ

「この街を生まれ変わらせたい」と
イトナブ立ち上げへ

  • SENDAI INC.:イトナブを立ち上げるに至ったきっかけを教えてください。

  • 古山さん:石巻は若者にとって、将来の選択肢が多いとはいえない街でした。

    私が通っていた工業高校でも進路指導の際は教師が「君の就職先なら、ここかここだね」と言い、生徒はそのなかから選ぶのが通例だったんです。

    そんな現実にモヤモヤを感じた私は埼玉の大学へ進学し、在学中にITと出会います。

    ITに大きな可能性を感じたと同時に、周囲の同年代の人たちがすごくチャレンジ精神旺盛で輝いていたのに触発され、卒業後には東京で会社を立ち上げました。

  • SENDAI INC.:東京で、IT系の事業をされていたんですね。

  • 古山さん:はい。そして2011年3月、私が29歳だったときに震災が起こりました。

    実家も被災し、これをきっかけに石巻に戻りましたが、いざ現地で街並みを見て「本当に街全体が壊れてしまったんだ」と大きなショックを受けたんです。

    けれど同時に、壊れたからこそ新しく再構築できるじゃないか、という思いも生まれました。

  • SENDAI INC.:街を新しく生まれ変わらせたいと思った?

  • 古山さん:そうです。
    地元に就職したいのに就職先がない、やりたいことが見つけられない。そういった若者のモヤモヤを解消してあげられる場所を、今なら作れるんじゃないかと。

    これまで石巻になかった場所を、新たに作り出すことが大切だと考えました。

  • SENDAI INC.:それがイトナブだったと?

  • 古山さん:はい。
    場所を作りたい、じゃあ自分に何ができる? と考えたとき、大学からずっとやってきたITだなと思いました。

    これから時代はどんどん情報化社会になっていきますから、東京に行かなくても、パソコン1台さえあれば世界一になれる。そんな環境を作りたいと思って始まったのが、イトナブです。

 

古山隆幸さん

震災後の10年間を振り返る

  • SENDAI INC.:ITといえば都市部が盛んで、地方に行けば行くほど馴染みの薄い分野という印象がありますが、石巻でイトナブを立ち上げるにあたって苦労したことはありますか?

  • 古山さん:これといって何もないですね。

    多少、変な噂を立てられたり文句を言われたりってこともありましたが、地方で目立ってしまうとどうしてもそういうことはありますから(笑)。

    でも本当に苦労と感じたことはないです。自分が成し遂げたいことをずっとやり続けてきたので、そう感じているのかもしれません。

  • SENDAI INC.:10年間を振り返って、イトナブの活動に変化はありましたか。

  • 古山さん:基本は変わりませんが、ちゃんと「仕事」をするようになったかなとは思います。

  • SENDAI INC.:というと?

  • 古山さん:もともと教育事業で儲けるつもりはなくて、とにかくまずは人を育てることが重要だと考えていました。
    なのでずっと月謝をとっていなくて、経営は結構大変でした。

    最初はカリキュラムもなくて、基礎は教えるけどあとは自分が好きなタイミングで来て、好きなように作って、わからなければ質問してっていうスタンスでしたね。

    でも次第に働いてくれるスタッフも増えてきて、会社としてちゃんとしなければというフェーズに来たなと感じています。
    なので今は制度なども整えて、学びに来る若者にとっても、働くスタッフにとってもより快適な場所になるよう努力しています。

    石巻の人たちが「我が子をイトナブに就職させたい」と思ってくれるような会社にしたいですね。

 

プログラムした機械

1分の積み重ねが、未来をつくる

  • SENDAI INC.:2015年に株式会社イトナブを立ち上げたのも大きな変化でしたよね。

  • 古山さん:そうですね。
    株式会社設立の経緯は、もともと教えていた子たちがちゃんと仕事できるくらいに育ってきたことでした。

    学校も卒業する年齢になってきたし、それなら株式会社を作って本格的に仕事をやり始めたらいいんじゃないかって。

    実際に、2012年の立ち上げ当初、小学5年生だった子が今うちの社員として働いているんですよ。

  • SENDAI INC.:それはすごいですね。教育における理念みたいなものはありますか?

  • 古山さん:物語の中心は自分だ、と常に子ども達に話しています。
    だからこそ自分の言動の1つひとつが自分に降り掛かってくるんだぞ、と。

    1分先には何の変化もなくても、1分の積み重ねが10年後20年後30年後の未来を変えますから。

  • SENDAI INC.:イトナブとして、次の10年はどうしていきたいですか?

  • 古山さん:情報や教育といったものを、全国の子ども達に平等に行き渡らせたい、どこに住んでいても一律に学べる環境を作りたいです。

    そのためにイトナブも仕掛けていきたいですね。なので、とりあえず石巻を買い取りたいです(笑)。

 

古山隆幸さん

優秀な人が都市部に流れてしまう問題を
「教育」で解決したい

  • SENDAI INC.:仮に石巻を買い取ったら、どんなことをしたいですか?

  • 古山さん:子ども達の未来をつくる、育てるための「学びのまち」にしたいですね。

    買い取るというのは語弊がありますが、「教育」というものを、もっと自由にできればいいなと思うんです。

  • SENDAI INC.:自由に、というと?

  • 古山さん:田舎にいけばいくほど、学校の勉強がすべてだという考え方が強いと思うんです。

    そうではなく、企業がもっと自由に「教育」に関わることによって、「いろいろな分野のすごい人」を増やしていくべきだと思うんです。
    勉強ができるのもすごい、スポーツができるのもすごい、プログラミングができるのもすごい、というように。

    子どもが好きなように生きて、人生を選択して、育つ環境を用意してあげる。これを教育でなんとかしないといけないと思っています。

    それによって、地方全体が抱えている人口流出の問題の解決の一歩にもつながっていくのではないでしょうか。

 

古山隆幸さんの手

イトナブと仙台との関連性

  • SENDAI INC.:イトナブは石巻の会社ですが、仙台との関わりという面ではいかがですか?

  • 古山さん:仙台の中ではなく、行ったり来たりしやすい石巻でビジネスをしているからこそ良い距離感で関われると思っています。

    さまざまな立場の人たちともコミュニケーションを取りやすい、というメリットがありますね。

  • SENDAI INC.:仙台に進出する予定は?

  • 古山さん:石巻で活動しているからこそ目立つ、というメリットがありますし、今のところは考えていないですね。

    地域をブランディングの1つとして活用しているとも言えるかな。

  • SENDAI INC.:なるほど。

  • 古山さん:仙台は東北で一番大きな街ですし、外からの人もたくさん入ってきます。
    なのでそこを入り口として、いかに石巻に流入させるかが私の1つのミッションだと思っています。

    そのためにも、仙台とは良い距離感でつき合っていくのがベストだと考えているんです。

 

古山隆幸さん

仙台×ITを盛り上げるには、
発想の転換が必要

  • SENDAI INC.:イトナブがITを通して石巻を盛り上げているように、仙台を盛り上げたいと考える企業は多いと思います。そのためにはどんな方法があると思いますか?

  • 古山さん:仙台が盛り上がるってことは、イコール宮城県が盛り上がるってことだと思うんですよ。

    なので、仙台を一点集中で盛り上げようとするのではなく、宮城県全体を盛り上げていくという考え方が必要だと思います。

  • SENDAI INC.:新しい発想ですが、たしかにそうかもしれません。

  • 古山さん:例えば、仙台市が県内の地域に仙台のIT企業を送り出すという施策はどうでしょう。
    戦国時代に、各地域を強くするために武将を送り込んでいたようなイメージですね。

    そうすると地方に雇用が生まれ地域が活性化しますし、若者は地元で技術を身につけることができます。
    そこで育った若者が将来的には仙台に就職するかもしれませんよね。

    優秀な人材が県外に出ていく問題も解決できるし、実現すれば良いサイクルで回っていけるんじゃないでしょうか。

最後に「イトナブも石巻から、仙台と一緒に宮城県全体を盛り上げていきたい」と語ってくれた古山さん。仙台×ITをより活性化するための、新たなヒントが見つかったインタビューになりました。

 

PROFILE

古山隆幸(ふるやま・たかゆき)

株式会社イトナブ

株式会社イトナブ代表取締役。 若者であれば誰でもが気軽にプログラミングを学べるイトナブを立ち上げ、小学生から大学生を中心にプログラミングについて学べる環境づくりや、とがった若者が育つ環境づくりに人生をそそぎながら「触発」「遊び」というキーワードで石巻を新しい街にするべく活動している。 都市部と地方部のプログラミングの学びの格差をなくし、地方部でも世界にチャレンジできるプログラマを育てることに注力し、地方都市部でプログラミングを学べる環境を全国に展開中。

株式会社イトナブ

Photo:SENDAI INC.編集部
Words:岩崎尚美
※撮影時はマスクを外していただきました。