01/27THU
PEOPLE
仙台から世界へ。
パフォーマンス集団
『白A』の軌跡と、
地方が向かう未来
プロジェクションマッピングやARといった最新のテクノロジーを駆使し、独自の世界観で見る人を魅了し続けるパフォーマンス集団・白A(シロエー)。
数々の世界的な賞を獲得するなど国内外で広く活躍する彼らですが、実は設立時のメンバーは全員、仙台市の高校の同級生なんだとか。
仙台から世界へ羽ばたき、そして今現在再び仙台を拠点に活動する彼らの「これまで」と「これから」について、ディレクターの菱沼勇二(ひしぬま・ゆうじ)さんとビジュアルアートディレクターの則兼大地(のりかね・だいち)さんにお話を伺いました。
「白A」の始まりは"高校の仲良しメンバー"
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SENDAI INC.:まず「白A」のルーツについて教えてください。
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菱沼さん:白Aは2002年10月に設立し、来年で20周年を迎えます。
オリジナルメンバーは6人で、全員が高校の同級生です。そのうち2人は小学校、もう2人は中学校から一緒で、そこに2人が加わった6人。
高校では演劇部員に所属していて、舞台やお笑いなどとにかく目立つことをやっていたメンバーでした。 -
SENDAI INC.:高校の仲良し6人組だったわけですね。
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則兼さん:ちなみに菱沼がオリジナルメンバーで、僕は2013年にオーディションで加入しました。
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SENDAI INC.:そこから白Aを立ち上げるに至った経緯は?
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菱沼さん:高校卒業後も「おもしろいことやっていきたいね」って。
それが全員共通の希望だったんです。
だから卒業後も学生ノリのまま、劇団やお笑いなどの表現活動を続けていました。 -
SENDAI INC.:現在の白Aは最新のテクノロジーを駆使したパフォーマンス集団ですが、立ち上げ当初の活動内容は今とは少し違ったんですね。
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菱沼さん:実は、卒業から白A結成まで4年ほどの空白期間があるんです。
その間にお笑いやアート、ポエム、写真など思いつく限りの表現活動をしました。
各地の芸術祭に出演して、ヴェネチア・ビエンナーレで賞を獲ったこともあります。
とにかくおもしろいこと、目立つことをやりたいというパッションの赴くまま、アングラで好き勝手に活動していたんです。 -
SENDAI INC.:その4年間で方向性が固まっていった?
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菱沼さん:そうですね。いろいろやっていくなかで、最終的にはステージ表現に絞ろうと決めて。2002年にパフォーマンス集団「白A」を立ち上げました。
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SENDAI INC.:今や世界を股にかける白Aですが、高校の仲良しメンバーが楽しく活動していた時代から、どのようにして今に至ったのでしょうか?
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菱沼さん:2009年頃までは、とにかく自分たちが楽しいこと、興味のあることに100%振り切ったプロダクトアウトをしていたんです。
世間がどう思うかを完全に無視した、いわゆるアートですね。
それでも突き抜けたことをやっていたので少しずつ注目されて、テレビやラジオに出していただく機会にも恵まれて、世間にも認知されていきました。 -
SENDAI INC.:それだけでもすごいことですが、さらに何か転機が訪れた?
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菱沼さん:はい。2009年に大手芸能事務所のアミューズに所属することになります。
そのとき言われたのが「あなた達にはものすごい可能性がある。ただ時代や世の中にまったく寄り添っていない。これから大事なのはマーケットインの考え方だから、もう少しお客さんに寄り添ったエンターテインメントをしましょう」と。 -
SENDAI INC.:なるほど。具体的には、どのように活動内容を変えたのでしょう。
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菱沼さん:当時のプロデューサーから、「映像と人間のパフォーマンスに絞って世界を目指しましょう」とアドバイスを受けたんです。
当時まだプロジェクションマッピングという言葉もなかったんですが、テクノロジーを使ったパフォーマンスはすごく”今っぽい”と思ったし、ノンバーバルだから海外向けにも通用すると感じて。
そこから「プロジェクションマッピングと人間」の表現に絞って活動を開始しました。
方向性の違いからメンバー間に生まれた亀裂
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SENDAI INC.:芸能事務所への所属と活動内容の変更は、白Aにとって大きな転換期だったと思います。
これまで「学生ノリで、楽しく」やってきたわけですが、そこでの難しさなどはありませんでしたか? -
菱沼さん:めちゃめちゃありましたね(笑)。
事務所に入る前は、メンバー全員が白A以外の仕事で生計を立てていたんですよ。
白Aの活動はあくまでも趣味の延長って感じで、楽しくやっていた。だからめちゃくちゃ仲良かったんです。でも白Aが「仕事」になった瞬間、ものすごい亀裂が入って。 -
SENDAI INC.:なるほど……。
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菱沼さん:とくに、リーダーの僕と他5人の亀裂がすごかった。
「プロとして、仕事としてしっかりやっていかなきゃいけない」という僕の考えと、「これまでみたいに仲良く楽しくやりたい」という他のメンバーの考えで真っ二つに割れて。
結果だけは出続けたし徐々に新メンバーも増えたので解散こそしませんでしたが、2017年頃まではずっと仲が悪かったです。 -
SENDAI INC.:かなり長い期間不仲だったことになりますが、何がきっかけでメンバー間の関係が改善したのでしょう?
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菱沼さん:改善の前に、またさらに大きな亀裂が入ることがありまして。
2015年にアメリカNBC「America’s Got Talent Season 10」に出演して、アジア人初のゴールデンブザーを獲得したんです。
そのときに、「アメリカを拠点にして活動したい」メンバーと「家族や恋人がいる日本に残りたい」メンバーとで白A内が大きく分裂しました。 -
則兼さん:僕と菱沼はアメリカ派でした。そのときは解散寸前まで揉めたんですよ。
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菱沼さん:でもそこで、本質をしっかり深掘りしようって話し合ったんです。
そうしたら、アメリカ派の言い分は「世界の人に向けてパフォーマンスをしたい」、日本派の言い分は「家族や仲間と好きなことをしたい」だなと見えてきた。
それなら、日本にいながら海外の人に向けて活動できればそれが一番いいよね、という結論に達しました。 -
SENDAI INC.:それが2017年頃?
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菱沼さん:そうですね。ちょうど訪日観光が盛り上がってきた時期でもあったので、「日本にブロードウェイを、観劇観光をつくろう」という夢・ビジョンが生まれ、インバウンド向けに絞った活動を始めました。
メンバー全員の目指す未来が重なって、そこで初めて本当に仲間になったと感じましたね。 -
則兼さん:そこから全員でインバウンド向けのショーを作り始めましたが、全員が急激に結束していると肌で感じました。
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菱沼さん:本当は、最初に理念や活動指針があって、そういうのが一致する人たちで集まるというチームビルディングが正しいと思うんですけど。
僕たちは同級生の集まりからスタートしたので、そういうのが後付けになっちゃいましたが……めちゃくちゃ雨降った結果、めちゃくちゃ地固まった、という感じです(笑)。
コロナ禍を機に「仙台に新しい遊び場をつくりたい」
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SENDAI INC.:20年間の活動を振り返り、とくに印象深い出来事は?
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菱沼さん:アミューズへの所属やインバウンド向けの活動に切り替えたりと大きな転機はいくつかありましたが、とくに印象深いといえばやっぱりコロナ禍です。
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SENDAI INC.:2019年末頃から始まったコロナ禍ですが、当時はどのような活動を?
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菱沼さん:新宿と横浜でインバウンド向けのショーをやっていました。
お客さんも増えて、オリンピックが来たらものすごいことになるぞという手応えも感じていました。
でもコロナ禍をきっかけに全部クローズして。2020年の5月頃には全部引き払って、ほとんどのメンバーが仙台に戻りました。これが6月頃のことです。 -
SENDAI INC.:かなり早い決断だったんですね。仙台に戻ってからは?
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菱沼さん:エンターテイナーとして、宮城・仙台でできることをとにかく模索しました。
なかでも積極的に行ったのが、行政の助成金事業。
「BtoC」でも「BtoB」でもない、「BtoG」のビジネスですね。
その結果、助成金を活用していろいろなイベントができるようになって、少しずつ気持ちの変化が生まれました。 -
SENDAI INC.:どのような?
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菱沼さん:東京などの都市部よりも地方でインバウンド向けに活動する方が、今の時代に合っているなと気づいたんです。
コロナ禍収束後は、きっと振り子の原理でまた訪日観光が盛り上がると予測しています。且つ人が密集している都会よりも、自然に触れたいという人が多いはずだと。
だからこれからは地元仙台で、世界中の人が楽しめる訪日観光コンテンツを作りたいと思うようになりました。 -
則兼さん:実際に今年は、仙台駅前に伊達政宗公が登場するショーレストラン『伊達スペクタクル』をオープンしたり、うみの杜水族館でイルカと人が競演する『SEATOPIA(シートピア)』を開催したりしましたね。
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菱沼さん:白Aとしてずっと、「日本にブロードウェイを作ろう」と言い続けてきました。
でも今は少し言い方を変えて、「宮城・仙台に新しいレジャーを作ろう」と発信しています。
僕たち、遊び場を作るのめっちゃ得意なので(笑)。
それが仙台に住む皆さんにとっても、訪日観光客にとっても楽しめる場所になればいいなと。
今はそういう夢を持って、仙台に100%コミットしようという気持ちでいます。
これからの10年、東京と地方の壁が溶けていく
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SENDAI INC.:東京の第一線で活躍していたところから仙台に戻ってきて、今率直にどのように感じていますか?
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菱沼さん:1年間、仙台で活動してみての気づきとしては、高いスキルを持つ人が少しずつ東京から地方に流れてきているということです。
東京でなく地方にいながらでも切磋琢磨できる時代は遠からず来ると思う。
これからの10年というテーマで言えば、東京と地方の壁が溶けて、働くことに場所は関係なくなっていくだろうなと。 -
則兼さん:IT技術的な話でいえばまだ東京から始まることが多いと思いますが、僕らみたいにUターンしてきた人が技術や知識を地方に広めて、それが定着していけば、いずれは東京と地方がフラットになる未来が必ずやってくると思います。
白Aとしての新たな挑戦
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SENDAI INC.:同じようにUターンなどを検討している人にとって、とても励みになるお話ですね。
白Aとして、今後どのような活動をしていきたいとお考えですか? -
菱沼さん:今は、5Gを使ってどんな表現ができるのかにすごく注目しています。
具体的にコミットしているものとしては、オンライン公演とオンライン観光がミックスされたコンテンツがあります。
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SENDAI INC.:というと?
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菱沼さん:オンライン公演もオンライン観光も、リアルな体験に比べると物足りないですよね。
本来観光って、いろいろ見て回って、食べて、最後に目的の何かをするもの。
例えば白Aのショーを仙台に見に行くのであれば、夜のショーまでの時間で松島に行ったり、仙台名物を食べたりするじゃないですか。
その街で1日を過ごして、最後に公演を見るっていう、このリアルな体験をオンラインでできないかを模索しているんです。 -
SENDAI INC.:オンライン公演とオンライン観光をミックスするとなると、技術的にはどうなんでしょうか?
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菱沼さん:これってまったく違う技術なんですよね。
街歩きの配信なら、街並みや景色が見られて、その街で売っている食べ物が通販で買えるようにしたりとか。
そのほかに場所やお店の許可取りも必要ですしね。で、公演なら劇場内にカメラを複数台設置して、マルチアングルのしっかりしたライブ配信を行うんです。
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SENDAI INC.:白Aといえばプロジェクションマッピングというイメージがありますが、まったく違うことに挑戦されているんですね。
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則兼さん:今や、プロジェクションマッピング自体がもう見慣れた技術ですから。
目新しさはないですし、あくまで表現手法の1つなんですよね。
ただ僕らは10年パフォーマンスとしてやってきているので、長年積み重ねてきたクオリティやパフォーマンスの合わせ方のスキルは他よりもあると自負しています。
IT技術の進歩により映像クオリティの差はほとんどなくなっていくなかで、差別化できるものといえばパフォーマーの技術。
要は、どれくらい泥臭い練習をしてきてるか、ってことになるでしょうね。 -
菱沼さん:テクノロジー全般に言えることですが、スキルでの勝負は相当難しいです。
これって100m走みたいなもので、本当に限られたアスリートみたいなテクノロジストしか勝てないと思います。
でもここに、体育会系や文系の要素を入れると、めちゃくちゃおもしろい勝負になるんです。 -
SENDAI INC.:体育会系と文系?
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菱沼さん:体育会系はフィジカル、要はパフォーマーを入れる切り口ですね。文系はストーリー制作です。
例えばプロジェクションマッピングの映像技術と、伊達政宗の歴史的なトリビアとを組み合わせるとか。
こうすることで、ただの映像よりもテクノロジーの価値が上がるんです。
IT技術はあくまでツール。
今後問われるのは「どんな課題を解決したいのか」
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則兼さん:これからは、「なぜこれをやっているのか?」がどんどん問われていく時代になると思います。
なぜこのエンタメをやるのか、なぜこの企業を立ち上げたのか、そういう信念や価値観をどう発信するか。
そういう確固とした芯みたいなものがある企業がお客さんに刺さり、残っていく時代になっていくと。
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菱沼さん:これはプロジェクションマッピングだけでなく、すべてに言えることだと思います。
「5Gを使って○○やってます!」みたいな売り文句じゃあまり刺さらなくて、何かしらの社会課題があって、それを解決するためにテクノロジーがありますという順番じゃないと。
テクノロジーはあくまでツールであって、何を求められていて何をするか。
そこにはどんなストーリーを設計するかという能力が、今すごく求められています。
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則兼さん:学生さんとか若い人はまずスキルを持ちたがるんですが、スキルはあくまでツールでしかないから、それを使って何を成し遂げたいかの方が重要です。
それがないと、せっかく作ったものも世の中に届かないってなっちゃう。
若い人には、ぜひそうした考え方を身に着けてもらいたいですね。
輝かしい実績の裏には、メンバー間の考え方の違いから生まれた軋轢やそれを乗り越えるための長い時間や労力、時代に合わせて柔軟に考え方や活動内容を変化させてきた歴史がありました。
「東京と地方の壁が溶けていく」という表現がとくに印象深く、地方を担うこれからの世代にとって、とても勇気づけられるお話が聞けたと思います。
Photo:SENDAI INC.編集部
Words:岩崎尚美
※撮影時はマスクを外していただきました。
PROFILE
これまでに世界31ヵ国で500公演以上を行い、10万人以上のオーディエンスを動員。 アメリカの国民的オーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」でアジア人初のゴールデンブザー賞を獲得。 空間やステージ上に映像を映し出す「プロジェクションマッピング」を駆使し、「パフォーマンス」と「テクノサウンド」を融合させた近未来型エンターテイメント集団「白A」。 ダンス・マイム・コメディ、その全ての要素を兼ね備えた SIRO-Aのノンバーバル・パフォーマンスは、年齢・国籍を超え、観る者すべてに驚きと感動を与える。 近年はパフォーマンス以外にも、AR技術を用いた配信ライブ、男子新体操のオンライン演技会、メタバースイベントなどのプラニングも行っている。