03/12WED
PEOPLE
失敗も学びに変える!
若者たちが挑むAIの世界
「みやぎAI部」の
取り組みを取材してみた
「みやぎAI部」は、宮城県内の高校生・高専生を対象に、AIの可能性やおもしろさを体験しながら学ぶプログラムです。山形県で展開されている「やまがたAI部」の取り組みを参考に、2023年10月に活動がスタートしました。
初心者でも楽しくAIに触れる、AIで日常生活の悩みごとや身の回りの課題を解決する、「AI甲子園(「やまがたAI部」が年度末に開催している全国大会)」に挑むなど、その活動は「勉強」ではなく、まさに「部活動」のように、みんなで主体的に楽しむもの。
SENDAI SIDEでは、みやぎAI部の「ゆでたまごAI実験」の様子をお届けします。IT SIDEでは、みやぎAI部の運営メンバーである竹川さんにお話を伺い、その裏側や今後の展望について深掘りします。
「ゆでたまごAI実験」とは? 現場を直撃してみた!
SENDAI SIDEでは、みやぎAI部の様子をご紹介します。
当日、取材にお邪魔すると、会場では「ゆでたまごAI実験」が行われていました。一体どんな実験が行われるのでしょうか?
実験に参加したのは、宮城県内の高校生4名と、学生の皆さんに伴走するコーチたち。これまではオンラインでAIについて学んできましたが、今年度では初めてリアルな実験の場が設けられました。期待と好奇心に満ちた状態で、いよいよ実験がスタートします!
ゆでたまごを作るとき、普段は経験や感覚を頼りに、お湯の温度や時間を推測している人が多いのではないでしょうか。しかし、半熟のゆでたまごを作りたいと思っても、中身がどうなっているかは割ってみるまで分かりませんよね。
そんな日常生活の悩みを、解決してみよう!というのが今回の「ゆでたまごAI実験」。お湯の温度やゆで時間を計測し、そのデータをAIに分析させます。AIの診断によって、たまごがどんな固さに仕上がっているか、中身を割らなくても予測できるかもしれません。
実験の結果はいかに? AIはゆで具合を予測できたのか?!
データロガーでお湯の温度を計測し、PCにデータを記録
まず、お湯の温度を測定するため、熱電対とデータロガーを準備します。熱電対は温度を測定するセンサーで、データロガーは測定データを記録する装置です。これらを接続してPCへデータを収集します。
ゆで時間から半熟のたまごの完成時間を予測し、ゆでていきます
お湯の温度が5秒ごとに記録されていきます
次に、PCに取り込んだデータを「ゆでたまごAI」で読み込み、AIにゆで具合を判定させます。「ゆでたまごAI」は、ブラウザ上でプログラミング言語Pythonを実行できるサービス「Google Colaboratory」で動作するAIプログラムです。参加した生徒たちは、事前にAIにゆで具合の基準を学習させていました。果たして、AIは正しくゆで具合を予測できたのでしょうか?
AIは半熟たまごの「成功」を予測、結果はいかに……?
実際に割ってみると、半熟の一歩手前の状態でした。このようにAIで予測した結果にならないことも……
AIの予測どおりにゆで卵が完成している場合もあれば、予測と実際の結果が異なる場合もありました。成功例や失敗例をみんなで共有しながら、「お湯の温度以外に、たまご自体の温度や会場の気圧、コンロの種類なども影響しているのではないか」などと考察を進めました。
複数の条件が絡み合って、ゆで時間が決まるというのはおもしろい発見でした。学生さんもコーチの方々も真剣に実験に取り組む姿がとても印象的でした。
理論だけでは得られない学び 実践を通じてAIの知識を深める
実験後、参加された学生さんにみやぎAI部に参加したきっかけや実験の感想を伺いました。
みやぎAI部 参加者の高橋さん
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SENDAI INC.:みやぎAI部に参加したきっかけは何ですか?
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高橋さん:情報の先生が、AI部の募集について教えてくれました。AIに強い興味があったわけではないのですが、直感的に「やってみたい」と思い、参加を決めました。
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SENDAI INC.:今回の活動で学んだことは何ですか?
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高橋さん:プログラミングは学習サイトで勉強したことがありましたが、今回は実際にファイル形式を調整したり、アップロードしたりするなど、実践的な面での学びがたくさんありました。本格的な実験に取り組めたことが良かったです。
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SENDAI INC.:今後の目標があれば教えてください。
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高橋さん:2月に発表があるので、現在その準備を進めています。発表までに課題を改善して、納得のいくAIモデルを完成させたいです。
みやぎAI部 参加者の市川さん
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SENDAI INC.:みやぎAI部に参加したきっかけは何ですか?
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市川さん:主催者の方と知り合いで、みやぎAI部に誘っていただいたのがきっかけです。元々、AIや最新技術に興味があったので、参加を決めました。
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SENDAI INC.:今回の活動で学んだことは何ですか?
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市川さん:AIの仕組みを実践しながら学べたことが、大きな学びでした。チャットGPTなどの完成されたAIを使用するのとは異なり、AIの内部に触れる貴重な経験ができました。
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SENDAI INC.:今後の目標があれば教えてください。
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市川さん:2月の発表に向けて、今回学んだ技術の応用やバックエンドの仕組みを活用して、モデル作成に取り組んでいきたいと思います。
若いうちからAIに親しむことができる環境をつくりたい
IT SIDEでは、みやぎAI部の運営メンバーである竹川さんに、みやぎAI部の活動や想いをお伺いします。
みやぎAI部の運営メンバーであり、株式会社 zero to one 代表取締役CEOの 竹川 隆司(たけかわ・たかし)さん
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SENDAI INC.:みやぎAI部が活動を始めたきっかけを教えてください。
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竹川さん:「やまがたAI部」の活動を仙台市主催「仙台X-TECHイノベーションプロジェクト」(以下「仙台X-TECH」)のイベントで知ったのがきっかけです。
発表を聞いたとき、若い世代がAIに親しむことができる、非常に充実した魅力的な活動だと感じました。そこで、宮城でも同じような取り組みを行いたいと考え、2023年10月にまずは有志でスタートしました。
今年度は宮城県からのご支援もいただき、「仙台X-TECH」に参加してくれていた方々を中心に、趣旨に賛同してくださった方々が、コーチや事務局の運営メンバーとして携わってくれています。
「ゆでたまごAI実験」に参加したみやぎAI部のコーチ陣と事務局メンバー、左からMUSASI D&T株式会社 佐藤 里麻(さとう・りま)さん、株式会社 zero to one 上野 伸一郎(うえの・しんいちろう)さん、宮城県産業技術総合センター 太田 晋一(おおた・しんいち)さん、株式会社アイティプロジェクト荒木 義彦(あらき・よしひこ)さん、NTT東日本 稲葉 勉(いなば・つとむ)さん、株式会社 zero to one 竹川 隆司(たけかわ・たかし)さん
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SENDAI INC.:みやぎAI部の活動は、学生たちにどんな影響を与えると思いますか?
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竹川さん:AIは敷居が高いものと思われがちですが、最近ではチャットGPTなどが普及し、日常的に触れる機会が増えています。若いうちからAIの仕組みや活用方法に親しむことが、人生を楽しいものにしてくれると思いますし、もちろん将来の地域経済にとっても重要だと考えています。
大人になってからAIに触れると、すでにAIに対する先入観ができているため、意識を変えるのが大変で、活用の幅も狭くなりがちです。しかし、若いうちからAIとの向き合い方を学んで、体感しておけば、見える世界も広がってさまざまな経験を得ることができると思います。
2025年度の大学入学共通テストから「情報」という科目も追加されますし、プログラミングやネットワークを勉強する機会が増えてきました。勉強というと、どうしても苦しくて辛いものだと感じてしまいがちですが、AI部ではAIを楽しんで体験できるような雰囲気を作っていきたいです。
学生とともに育むAI活用の未来
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SENDAI INC.:みやぎAI部の活動内容について教えてください。
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竹川さん:今年度は2週間に1回、18時半から19時半の時間帯に、オンラインで学びや共有をする時間を設けています。教材として、弊社で開発した人工知能のオンライン基礎教材や、やまがたAI部さんからお借りしたYouTube教材を提供しています。
カリキュラムでは、まず基礎的な学習を行った後、実際にツールを使ってAIを体験していきます。現在は、自分たちで身の回りの課題解決のために、どのようにAIを活用できるのか、活用方法を考えて、コーチの伴走のもとで実際に実装してみるフェーズに入っています。3月にはNTT東日本さんの協力で、アーバンネット仙台中央ビルにある「スマートイノベーションラボ」にて最終発表会を開催し、各自の活用方法や実装の成果を発表してもらう予定です。(※取材は2025年1月に実施)
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SENDAI INC.:学生さんにとっては、イノベーションラボのような会場で発表するのも大きな刺激となりそうですね! 何か学生さんと触れ合っていて、印象的なエピソードはありますか?
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竹川さん:学生の皆さんには最終発表に向けて、自分たちの身の回りの課題をどう解決するか、どのようにデータを収集し、AIをどのように活用して解決するかを考えてもらっています。そして、解決策が実現した場合、どんな良い結果が得られるのかもプレゼンしてもらいます。
フレームワークに沿ってアイデアを考えてもらうのですが、当初はちゃんと意図が伝わっているか不安でした。しかし、実際にシナリオを書いてもらうと、1人で10個もアイデアを出してくれる子がいたり、数個のアイデアについて相当深く考えてくる子がいたりしました。本質的な部分をしっかりと捉えて、多くのアイデアが生まれていることにとても感銘を受けました。
「自分は片付けが苦手だから、片付けができるツールが欲しい」とか、「バスの遅延は、AIで予想できるよね」といったアイデアが出てきました。AIはあくまでツールに過ぎないので、AIを使っていかに自分の周りを豊かにできるかを考える力が必要だと思います。想像以上のアイデアが出てきて、嬉しい驚きがありました。
挑戦と失敗の繰り返しが人生を豊かにする
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SENDAI INC.:先ほど、学生さんが作成した資料を拝見したのですが、分かりやすく、資料のデザインも素敵で驚きました! 今後の活躍が楽しみですね。「AI甲子園」にも出場されると伺いました。
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竹川さん:そうなんです。最終発表で優秀賞に選ばれた学生は、やまがたAI部が主催する「AI甲子園」に出場することができます。熊本や東京など、全国の高校生が参加します。みやぎAI部に所属している皆さんは、プレゼン資料もデザイン性が高く、人前でもしっかりと発表できる優秀な学生が多いです。ぜひ、自信を持って挑戦してもらいたいです。
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SENDAI INC.:最後に、この記事をご覧いただいている学生さんへメッセージがあれば、お願いいたします。
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竹川さん:とにかく、若いうちにどんどん挑戦して、どんどん失敗してください!(笑) 今は情報があふれていて、挑戦できる機会がたくさんあります。恵まれた環境である一方、どのように選択するか、自分の判断が重要な状況でもあります。総合学習や情報など、学ぶ内容も多様化しています。
大変な状況ではありますが、むしろプラスに捉えて、楽しそうだなと思うことには積極的に挑戦してほしいです。挑戦には失敗がつきものですが、失敗の積み重ねは大きな成果を生み出します。今は「失敗」と思えることも将来につながることを信じて楽しみながら、人生を豊かなものにしていってもらえたら嬉しいです。
【まとめ】
これから、AI甲子園でみやぎAI部の皆さんが活躍するのが楽しみです。実験に参加されている皆さんが、難しく勉強するのではなく、楽しくAIを使っていたのが印象的でした。AIに親しむプログラムにより、ITへのハードルが下がり始めていることがわかりました。ぜひ、みやぎAI部が気になる方は、Webサイトをご覧ください。
みやぎAI部Webサイト
https://zero2one.jp/miyagiaiclub/?srsltid=AfmBOorVnMeAGthCH_Rp-iMxx-muCfnbU5WFymneDyUjKeqkrdT3o4H4
3月5日(水)に開催された最終発表会の参加募集ページはこちら
https://miyagiaiclub2024-2025finalpresentation.peatix.com/
PROFILE
宮城県内の高校生・高専生を対象に、放課後の部活動の時間を通じてAIに関する先進技術やデータサイエンスを実践しながら学ぶプログラム。AIのおもしろさ、AIでできること、などを体験しつつ、初心者でも楽しみながらAIに触れることができる場を提供。
みやぎAI部の運営メンバーであり、株式会社zero to one代表取締役CEO。 野村證券にて国内外で勤務後、2011年米国ニューヨークでAsahi Net International, Inc.を設立。高等教育機関向け教育支援システム事業のグローバル化を推進。現在は、学生、社会人、経営者向けの教育・研修や、IT活用、DX推進に関する教育・研修事業を展開。東北大学共創戦略センター特任教授(客員)等も務める。
INTILAQ 東北イノベーションセンター
Photo:寺尾佳修
Words:かさまつ ひろこ