04/10TUE
LAB
自らの技術を結集させた
DJ機器開発
クラウドファンディングで
国内記録を更新!
音楽系のシステム開発を、様々な分野で手がけてきた宮﨑さん。2012年2月に仙台で株式会社JDSoundを創業します。その年の12月、世界最小のDJ機器「GODJ」を発売。世界最小、かつ高性能というこの機器は、世界中のDJに広がっていきます。
さらに2015年12月には、「GODJ」を使ったユーザーから寄せられた要望に応えるため、「GODJ」の後継機「GODJ Plus」の開発が始動。クラウドファンディング初挑戦にも関わらず、大成功をおさめたポイントとは?
Point1『お客さんの声を聞いて、進化させる』
購入してくださるお客さんにベストな状態で製品を使ってほしいという想いから、ソフトのアップデートを可能にしておいたことで、世界中のユーザーから改良のための意見が集まりました。アップデート対応は、お客様へのホスピタリティでありながら、次なる製品開発のための貴重なデータ収集のきっかけにもなりました。
シリーズ最初のプロダクトである「GODJ」
ソフトで解決できる要望への対応がひと段落したところで、ハードの改良が必要となる要望に応えるため、「GODJ Plus」の開発を決意します。
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宮﨑:GODJ Plusは、金型だけで1,500万ほどはかかるプロジェクト。うちみたいなベンチャーには銀行もそう簡単にお金を貸してくれません。そこで前から気になっていたクラウドファンディングはどうかなと考えたんです。
仙台のイベントで出会ったサイバーエージェントが運営するクラウドファンディングサービス、「Makuake」の社長に相談してみると、すでに「GODJ」での実績もあり「やりましょう」との2つ返事。目標金額2,000万円の「GODJ Plus」のクラウドファンディングがスタートしました。
結局、クラウドファンディングで集まった金額は目標金額を大幅に超える約5,300万円。これは当時の国内最高金額を更新するものでした。
宮﨑さん自ら、デモプレイで「GODJ Plus」の音を体感させていただきました。
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宮﨑:成功の要因というのは、前回の「GODJ」も含め、多くの人が応援したくなるようなものづくりの姿勢を示せていたことが大きいかもしれません。
Point2『レポートで進捗を公開して、応援してくれる人と一緒に育てるプロジェクトに』
クラウドファンディングは、アイデアを形にしたい実行者が、世の中に呼びかけ、共感した支援者から資金を集め、ともに実現を目指すプラットフォームです。アイデアの新規性はもちろん、どのように支援者の心を動かすかが成否を分けることになります。
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宮﨑:7日から10日のサイクルで、発売までの間、ずっと情報を発信し続けました。製作中の機器に関して、今ここをこういう理由でここを修正しているということも詳細に公開しました。
クラウドファンディング終了後も活動レポートページは閲覧可能
情報公開により支援者たちを安心させるのは、クラウドファンディングではとても重要なことと宮﨑さんは力説します。実は、「GODJ Plus」の販売は当初予定から5か月遅れてしまいました。それでも大きな騒動にはならず、支援者たちは発売を待ってくれました。
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宮﨑:他社には真似できない自信があるので、図面なども載せていました!
「GODJ Plus」がいよいよ工場から発送された時のレポートを見ながら、当時の想いを語ってくださいました。
開発や利益のことだけを考えるのではなく、使う人を第一に考えることが結果的にいい製品づくりにつながっていく。そんなものづくりの姿勢が、クラウドファンディングの特性にマッチしていたようです。
Point3『MADE IN TOHOKUの信頼感と、ストーリー性』
現在、JDSoundでは、「GODJ Plus」に続く、2つ目のクラウドファンディングを行っています。
それは“映画館の感動を再現するスピーカー”と銘打たれた高音質スピーカー「OVO(オヴォ)」。シンプルなUSBスピーカーですが、ホワイトノイズがほぼ0という驚異的な製品です。注目度もとても高く、目標金額を2,000万円としたにも関わらず、2018年4月7日現在で5,500万円を超える金額を集め、「GODJ Plus」の額を既に上回りました。
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宮﨑:前回製作した「GODJ Plus」に取り付けたスピーカーの評判がとてもよかったんです。それならと、スピーカー部分を取り出して商品化したのが「OVO」。実はぼく自身にとっても、このスピーカーはかねてから作りたい商品でした。
出張の多い宮﨑さんはビジネスホテルでパソコンを開き、映画を観る事が多いとの事。また音や映像を交えたプレゼンテーションをする際もパソコンのスピーカーでは物足りないと感じていました。
そんな時コンパクトなよいスピーカーがあればという思いが以前から強かったそう。「OVO」はまさにそんな使用に最適のスピーカーなのです。
ちょうど取材当日に届いたという、OVOの本体カバー。
クラウドファンディングでは、信頼感やストーリー性も重要と宮﨑さんは考えています。「GODJ Plus」の製作の際に出会った石巻のヤグチ電子工業は、かつてソニーのウォークマンなどを作っていた工場。技術的にも申し分ありませんでした。今回もともにチームを結成。
仙台のJD Soundが考案し、石巻のヤグチ電子工業が製作する、この“Made in TOHOKU”というのも、「OVO」の付加価値になっているのではと宮﨑さんは感じています。
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宮﨑:商品に付加価値をつけるのも大切。「OVO」では、幸い“MADE IN TOHOKU” という形で製品作りができましたので、そこをキャッチコピーにも入れましたが、おおむね快く受け入れられているようです。
「OVO」は東北の工場の高い技術力に支えられている。
機器開発を行っていると、さまざまな問題に直面します。仙台から車で40分ほどで行ける石巻のヤグチ電子工業は、そうした時、とても頼りになる存在です。
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宮﨑:毎回、石巻に行く前は、どうしようどうしようと悩んでいても、ヤグチ電子に行って相談すると解決することが多かったんです。よいパートナーが身近にいることは心強いですよ。
Point4『魅力をプレゼンテーションするコピーや映像』
商品の製造だけでなく、その魅力を伝えることにもプロとして臨むことが必要と言う宮﨑さん。
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宮﨑:クラウドファンディングは大きなお金が動きます、だからこそ、商品を伝える写真や動画、文章なども真剣に作成し、よりよいものにしないと支援者たちは見向きもしてくれません。
「OVO」は、『映画館の感動を完全再現する』というキャッチコピーとともに、クラウドファンディングのサイトに公開されています。
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宮﨑:その製品の一番の特徴を伝える部分に特化して伝え、細かな性能に関しては、製品情報を見てもらえばわかる、というくらいの割り切りも、人に伝える場合には必要なのです。
さらにロゴマークもスピーカーをどんな風に置いても違和感の無いデザインにこだわりました。
手塩にかけた製品の魅力を伝えることにも真剣で、その過程を楽しんでいるようにも見える宮﨑さん。まだまだ日本では「ものづくり」のクラウドファンディングが少ない状況ですが、これからどんどんそうしたプロダクトが出てきてくれることを、宮﨑さんも期待しています。
2度目のクラウドファンディングも好調に伸びています。その成功の裏には、ものづくりにも、そのプレゼンテーションにも、細部にまで手を抜かない姿勢がありました。
PROFILE
宮﨑 晃一郎(みやざき・こういちろう)
株式会社JDsound
JDSoundは半導体設計とデジタルオーディオの分野で15年以上の経験を持ち、遊戯機やカラオケ機器といった業務用製品からギターエフェクタやハイレゾプレイヤーなどのコンシューマー向け製品まで幅広い実績があるチームです。企業理念は「人生の宝物になる製品を作る事」。メイドインジャパンの高品質オーディオ製品を全世界に発信しています。
株式会社JDsound
Photo:小林啓樹(OPEN TOWN)
Words:板元義和(シュープレス)