01/22FRI
LAB
仙台ITコミュニティで人と、世界と、
「つながりはつくれる」
みなさんは、「勉強会」をご存知でしょうか。複数人があるテーマについて勉強をする、いわゆるコミュニティの一つです。
なんだか最近よく耳にする「コミュニティ」ですが、一体どんなものなのでしょうか。また、仙台でのコミュニティはどういう役割を果たしているのでしょうか。
この記事では、検索してもなかなかたどり着けない、仙台の今にフォーカスします。
今回取材したのは、勉強会に初めて参加する不安を感じている人が、初めの一歩を気軽に踏み出すことを目的とした「はじめてのIT勉強会」。
仙台でのITコミュニティのハブとなっているこの勉強会を立ち上げ、現在も運営に関わっている可野沙織さん、佐藤将太さんにインタビューしました。
「SENDAI SIDE」では、立ち上げのきっかけや、現在に至るまでの背景、オンラインでどう変化しているのかについて。「IT SIDE」では、勉強会の雰囲気や内容、これからのコミュニティのあり方についてお伺いしました。
仙台でのITコミュニティ立ち上げのきっかけ
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SENDAI INC.:「はじめてのIT勉強会」を立ち上げるきっかけは何だったのですか?
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佐藤さん:はじまりは、可野さんの当時所属していた企業から「仙台でも勉強会開催したい」と相談されたことがきっかけでした。
そこから社内外の交流やリクルートの意味合いも含めた勉強会の運営をお手伝いしました。 -
可野さん:当時は、バリバリの技術者が集まる勉強会が多くて、「誰が来てもいいよ」というオープンな勉強会は少ない印象でした。
勇気を出していった人が、身内感が強く疎外感を感じてしまうことも多かったように思います。 -
佐藤さん:IT業界では会社でも家族でもない第三の場としてコミュニティが開かれているのですが、そもそも仙台ではコミュニティというものが認知されてない点が問題でした。
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可野さん:そんな人の「初めての一歩」として気軽に立ち寄ってほしいと、毎月定期開催で2017年の4月に始まったのが「はじめてのIT勉強会」です。
オープンでカジュアルな
やわらかい雰囲気へと変化
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SENDAI INC.:立ち上げから約3年が経ちますが、仙台のITコミュニティはどのように変わってきていると感じていますか?
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可野さん:オープンで行きやすい勉強会が増えたと思います。「初めての人が来てくれて嬉しい!」とウェルカムな雰囲気があります。
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佐藤さん:スーツの人、とても減りましたよね。女性の参加者も増えましたし。
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可野さん:そうですね!
カジュアルな雰囲気なので、学生やITに馴染みのない人も参加しやすくなりました。オープンコミュニティにしたことで参加人数が増えましたし、同じようなコミュニティが増えたと思います。 -
佐藤さん:enspaceができたことも良い影響を与えていると思います。
enspaceができる前は、学生さんが借りられる場所があまりなくて。
enspaceでは学生インターンや入居者の話題が聞けるオープンな雰囲気がすでにあるので、運営スタッフが雰囲気作りに注力する負担が減り、より参加者に楽しんでもらうための内容づくりに軸を置けるようになってきました。
勉強に参加する企業は
CSR的な活動を知ってもらう機会となり、
リクルートへと繋がる
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可野さん:立ち上げのきっかけのもう一つにあったリクルート面も、各企業さんの採用率は高くなったりと、最近は変化が出てきました。
社内外の交流を積極的にやっていることや、社外の意見を自社に生かした新しくて面白い活動をしていることを知ってもらうことができて、採用率がものすごく上がっています。 -
佐藤さん:当初はクローズドの雰囲気が根付いていたので、採用を目当てに参加することが難しかったんです。
でも宣伝枠を用意したところ、「仙台に新しく事務所を建てるから、仲間を募集したい」と他県の企業の参加が増え、採用に繋がったこともあります。
新型コロナウイルスで
オフラインの価値が重要視されてきている
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SENDAI INC.:オンラインが浸透してきても、やっぱりオフラインでの勉強会に価値を感じている人が多いのでしょうか。
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佐藤さん:情報が伝わる速度の差は無くなってきています。
「CODE BLUE 2020@TOKYO」という情報セキュリティ専門家の国際会議が完全オンラインで開催され、その情報をリアルタイムに仙台で取得して勉強会ができたり。
ただ、情報の0から1になる発信元になることは、関東を超えられない印象はあります。 -
可野さん:それに、「オフラインでリアルで会いたい」という声はやっぱり多いです。
参加者の目的はただ情報の伝達だけではなく、「交流がしたい」という欲求もある。その部分は、まだオンラインではハードルが高いです。 -
佐藤さん:面白い表現があって、「絆の貯金」でオンラインのコミュニティは成り立っている、と聞いたことがあります。
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SENDAI INC.:知識を得ることだけが目的ではなく、その間にある出会いや雑談を交えた会話が生まれる交流を求めて参加しているのかもしれないですね。
自分に合ったITコミュニティを探すためには
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SENDAI INC.:最初にコミュニティを探すときはどうしたら良いですか。
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可野さん:とりあえず、connpass(コンパス)で探す人が多いのかな。でも、信用できる人の紹介が絶対おすすめです。
たとえば、「はじめてのIT勉強会」に参加して、自分が求めているものと一致したコミュニティを紹介してもらうのもいいと思います。
※connpass(コンパス)…主にエンジニア向けのIT勉強会やイベントの情報が集まる、「エンジニアをつなぐIT勉強会支援プラットフォーム」。 -
佐藤さん:我々のWebサイトにも「IT COMMUNITY GUIDE」を掲載していますが、毎回のイベントの中でITコミュニティのロゴと内容見せて「他にも行ってみて、駄目だったらここに戻ってきてね。」と話しています。
合わなかったら戻ってきてもらって、また別なところを紹介してもらうことで、コミュニティへの参加を諦めないようにしたいです。
失敗も隠さず話せる
肯定的な雰囲気
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SENDAI INC.:「はじめてのIT勉強会」の雰囲気について、もっと詳しく伺いたいです。
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可野さん:まずは、「こういう人は来ないで欲しい」というものを明確にしています。
そうすると、年齢層が上の方が、若い方がきた時にちゃんと肯定してくれるように動いてくださりました。 -
佐藤さん:何やっても「初めて」を前提としているので、否定はせず、受け入れることは徹底しています。
あとはリピートの方々に、「初めての方や会ったことのない人と積極的に話をしてほしい」というお願いをしています。
初参加者から「温かい雰囲気で接してくれた」という嬉しい声が増えて、定期的に参加していただけるようになりました。 -
可野さん:そういう雰囲気があるからか、LT(ライトニングトーク)で先輩が積極的に失敗談を話してくれます。
否定されないし、失敗をしても全部笑って受け止めてくれる場所なので、心理的安全性が確保されているのかもしれません。
※LT(ライトニングトーク)…イベントなどで行われる5分程度の短いプレゼンテーションのこと。 -
佐藤さん:基本的にピリッとした空気にはならず、和やかです。LTも最近は自らやりたいと言ってくれる人が増えました。
募集するとLTから埋まりますし、「宣伝枠」や「学生応援枠」で有料の募集枠が埋まるようになりました。
お金を集められないと言われている地域で、率先してお金を払ってくださる方がいることはすごく良い変化です。 -
SENDAI INC.:他のところもそんな感じでゆるいんですかね。
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佐藤さん:ゆるいというか、講義型よりも参加型に変わってきています。
講義型の良さもあるので、続けているところはありますが、新しい形を模索している印象です。
参加型のところは人が集まりやすく、盛り上がっています。
学生や若い世代が
学校以外のつながりの場所をつくっていく
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SENDAI INC.:ITコミュニティに参加して得られる価値って知識だけかと思っていました。
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佐藤さん:学生さんは特にインターンに参加するよりも社会人との距離が近いことがメリットだと思います。
オープンな雰囲気の会社やフリーランスの方が参加しているので、実際にどうやって仕事してるのかや、どういう開発環境かを話してくれます。
違う環境の社会人に出会えることがすごく価値になりますよ。
実際、「はじめてのIT勉強会」をきっかけに学生さんのアルバイトが決まったり、内定や転職が決まる形で、コミュニティが機能している側面もあります。
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可野さん:学校や会社以外の場所があるって、良いことですよね。
仙台でITコミュニティの数が多いほど、ユーザーの選択肢が増えますし、コミュニティも大きくなっていくと思います。
今はまだ「この言語についてめっちゃ喋りたい」と思った時に、そういう人と出会えるような場になりきれていないので、もっとコミュニティが増えたら嬉しいです。
働くことを知るために、
働く環境を良くするために、
コミュニティがある
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SENDAI INC.:仙台だと一つの会社に何人も同じ職種の社員がいるわけではない場合も多いですよね。
これからフリーランスも増えていくだろうし、ますますコミュニケーションができる場が重要になっていく気がしてきました。 -
可野さん:社内の情報は滞ることが多いので、社外で情報を得るために勉強会へ参加してもらったほうが良いと思います。
いろんな人が交流して、想像以上のイノベーションが生まれやすくなると思います。 -
佐藤さん:そのためには、ITコミュニティの存在がもっと認知されるようになってほしいです。
IT系を目指すなら、勉強会に参加することはとてもためになるので、学校の先生にもっと知ってもらいたいです。
実際にGLS(グローバルラボ仙台)に絡んでいる学生は、先生の紹介で参加してくれています。 -
SENDAI INC.:高校生が来たら面白いですよね。先生にITを勉強したいって言ったら、ここに行けって言われたとか。
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佐藤さん:お金が手に入るわけじゃないので、学生からしたらメリットが目に見え辛いと思います。今後、「情報の価値」みたいなところが浸透したらいいですね。
肩書きや年収を聞いたらびっくりするような世界で活躍する人が仙台のコミュニティにもゴロゴロいるので、保護者の方の印象は変わるかもしれないです。
仙台ITコミュニティ紹介
仙台にあるITコミュニティ一覧はこちら!
横のつながりはここで作れる。仙台市ITコミュニティ紹介
PROFILE
佐藤 将太(さとう・しょうた)
仙台高専 名取キャンパス(旧宮城高専)在学中に事業を開始。同校専攻科を卒業後、立ち上げた事業と並行しつつ、地元仙台のソフトウェア開発企業に就職。震災後、KLab株式会社に転職、ソーシャルゲームの開発・保守・運用を経験。その後、エンターテイメントコンテンツ制作企業を経て、セキュリティベンチャーの取締役に就任。現在は、新規事業創出の支援他、学生/若手社会人が挑戦できるコミュニティ作りを積極的に推進中。
可野 沙織(かの・さおり)
エンスペース株式会社 シニアマネージャー IT企業にて、様々なクライアントのカスタマーサポートセンターを立ち上げ、人材採用から運用構築・サービス改善を責任者として従事。人材育成や組織マネジメントの経験を活かし、宮城県内を中心に若者向けのコミュニティ活動や活動支援を行っている。 エンスペース株式会社では、enspaceのコミュニティマネージャーとして参画し、若手育成・起業家を支援する環境構築、海外事業の新規立ち上げに従事。
enspace
Photo / Words:笠松宏子