06/11MON
LAB
これからの
「当たり前」をつくる。
津波避難広報用
セルラードローン
実証実験に成功!
インターネット、スマホ、ICカード…。今は当たり前に生活に溶け込んだIT技術も、開発段階ではたくさんの試行錯誤がありました。実は仙台市では、これからの「当たり前」を社会に取り入れていくために、IT技術の実証実験が行われているのです。
この記事では日々アップデートされていく、少し未来の「当たり前」情報をお届け。近い未来にはきっとあなたも利用するであろう、生活のイメージを一歩先取りしましょう!
セルラードローンって?
地上からの無線操作で空を飛ぶドローン。最近は一般向けにカメラ付ドローンもたくさん出ているので個人で撮影に利用されている方も多いかもしれません。
風に耐えながら飛び立つ姿は、健気でかわいい
「セルラー」は携帯電話で使われている無線方式のひとつ。携帯電話のことを英語では“cellular phone”という時のあれです。つまり私たちが普段携帯電話の通話で使っている4G(LTE)の電波を使って操作することができるドローンのことです。
これの何がすごいかっていうと、通常のドローンは操作する人が持っているコントローラーから無線が受信できる距離までしか飛べませんが(最大で2kmくらい)、このセルラードローンは携帯電話がつながるエリアならどこまででも通信できる点です。
これが、セルラードローン!
遠くまで飛べるということは人間が簡単には入れない場所にも、人間の代わりにセルラードローンが空から入っていけるということ!
東日本大震災を経験して避難広報の大切さ、難しさを学んだ東北。この学びを活かすために、仙台市ではセルラードローンを「津波避難広報」に利用するための実証実験を繰り返してきました。
震災遺構 荒浜小学校と荒浜海岸を会場に、実際の避難広報を想定した実験を行いました
ドローンが人を救うには?実験のポイント6つ
今回の実験のポイントは6つ。
実験内容を報道各社に説明
- Jアラートが出たら、(人間の操作無しで)ドローンが自動で離陸すること。
初動が早くできれば、逃げ遅れるひとも減らせるはず! - 設定済みのルートを(人間の操作無しで)自動飛行しながら、遠隔地へのリアルタイム映像の伝送と録音された避難放送を流すこと。
ドローンのお腹部分についている白い筒が下向きのスピーカーになっています。 - ドローンがいまどこを飛んでいるかの位置情報と、ドローンから撮った写真が離れたモニターの中の地図にリアルタイムで表示されること。
- 避難している人に、ドローンのスピーカーから肉声で呼びかけること。
肉声が届けられれば、適切な避難判断を個人に呼びかけることができそうです。 - カメラの画像検知で逃げ遅れている人を発見!そして撮影した映像を鮮明にすること。
- 4Gだけでなく、自治体が使う防災行政無線からの放送をドローンから流すこと。
かなり実用に基づいた実験内容です。
果たして実験はうまくいくのか…!?
実験は大成功!
自動飛行を終えて荒浜小学校に帰ってきたセルラードローン。おかえり!
実証実験は全部で4回のフライトで行われ、その中で6つのポイントを確認しました。
実験の様子の一部を、写真と動画でお届けします。
自動飛行しながら避難放送を流す
ドローンが飛んだ位置情報が緑の線でマップに表示
空撮された写真がリアルタイムで地図上に表示される
小学校から荒浜海岸まで片道約750mの距離を飛んできたドローン。
逃げ遅れた人役のスタッフが動き回っても、きちんと人物検知して画像を送ります。
「声が聞こえていたら手を振ってください」の呼びかけは、海岸に届いていました。
当日の天候は軽く日焼けしてしまうほどの快晴でしたが、沿岸部ということもあり風速は5~6m程度。ドローンが風に煽られないか少し心配もしましたが、さすがは安定感のある飛行で一同ほっとした様子でした。
日本を代表するIT企業の技術の結晶
このセルラードローン、もちろん仙台市だけの力で開発したわけではありません。
携帯電話の通信回線を用いたドローンとの通信技術やメールと連動した自動離陸は、NTT docomo!
セルラードローン機体本体の開発は、ブイキューブロボティクス!
避難放送を流すスピーカーと防災行政無線の受信はパナソニック・システムソリューションズジャパン!
ドローンが飛んだルートを地図にリアルタイムで表示する画像マッピングは富士通!
逃げ遅れた人を見つけて人物検知・画像を鮮明にする技術はNEC!
私たちも聞いたことのある民間企業ばかり!
「防災・減災分野におけるドローン運用モデル」の実現に向けて仙台市が旗振り役をすることによって、企業同士のコラボが実現しました。日本を代表する技術の結晶となって、今回のセルラードローンは開発されているんですね。
現場のニーズを知っているから、開発ができる
今回の実験は成功でしたが、実用化に向けてはまだまだ解決しなければならない課題は残っています。
もっとバッテリーが小型軽量化できれば、飛行距離がのばせる。
もっとスピーカーのボリュームを大きくできれば、遠くまで避難放送を届けられる。
ドローンの格納箱が自動で開いて離陸できれば、市職員が現地に赴かなくても迅速に避難放送を開始することができる。
こういった開発要件(どういう機能が欲しいか)の設計をするにあたって大切なのは、「実際に使う人はどういう使い方をしたいか?」というニーズを取り入れること。
このプロジェクトでは、現場で実際に使う場面を常に考えながら取り組んでいるから、 スムーズにセルラードローンの開発が進められているそうです。
官民共同でこれからの「当たり前」を実現するために、セルラードローンはどんどんアップデートしていきます!
PROFILE
仙台市は、震災後の社会起業家・女性起業家の増加を背景に、「女性活躍・社会起業のための改革拠点」として国家戦略特区に指定されています(2018年3月時点で10区域)。現在は主に「社会起業」「女性活躍」「近未来技術実証」「医療」「公共空間利活用」の取り組みを進めていますが、他にもさまざまな『規制改革メニュー』を活用することで、これまでの法などの枠組みを超えた新たな試みを進めています。
取材場所:震災遺構 荒浜小学校
Photo:小林啓樹
Words:清水千晶