06/08MON
LAB
課題山積みの地方
だからこそチャンスがある。
ヘルスケア×IT・ヘルステック領域を切り開く、
フィリップスの挑戦
電動歯ブラシやシェーバーなど、私たちの生活にも馴染みの深いフィリップス。
オランダに本社を置く世界的なヘルスケア関連企業です。
そんなフィリップスが、仙台市に「フィリップス・コ・クリエイションセンター」を開設。 同社としては日本初となるイノベーション拠点です。
ヘルスケア×ITのヘルステック領域をより深く、広めていくために、地元企業や大学、仙台市と共にオープンイノベーションの場として設立された本拠点は、まだまだ謎だらけ。
気になることをすべて解決するため、潜入取材を申し込むと快くOK。フィリップス関係者も立ち入り禁止の超極秘のエリアを含め、くまなく見せていただきました。それではみなさんも一緒に、潜入スタートです!
「フィリップス・コ・クリエイションセンター」ってどういう施設?
というわけで、フィリップスのコ・クリエイションセンターがある国分町の某ビルに向かったSENDAI INC.取材班。エレベーターで3階まで来ると、さっそくおしゃれな入口が。
受付を済ませ、いざコ・クリエイションセンターの中へ。 どきどきしながら通路を進んでいくと、センター長(2020年3月現在)を務める赤坂亮(あかさか・りょう)さんがお出迎えしてくれました。本日はよろしくお願いします!
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SENDAI INC.:ここはイノベーション拠点ということですが、どういうことを目的とした施設なんですか?
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赤坂さん:これまでのフィリップスジャパンは、本国のオランダなどでつくられた医療機器を日本に輸入し、その輸入したものを販売する「輸入代理店」のような立ち位置でした。
事業を行っていく中で、本国で出来上がった製品を輸入して販売するだけでは日本の方々に最大限の価値をご提供できていないことに気づいたんです。
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SENDAI INC.:なるほど。
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赤坂さん:なので、日本の医療現場が抱える課題やニーズを起点にソリューションをつくり、「世界から日本へ」ではなく「日本から世界へ」、グローバルに発信していこうと舵を切ったんです。
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SENDAI INC.:具体的にはどういうことをしているんですか?
多種多様なアイディアを創出する場「デザインシンキングルーム
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赤坂さん:では早速、移動しましょうか。
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赤坂さん:ここは「デザインシンキングルーム」といって、アイデアを創出するための部屋になります。
ちなみに「デザインシンキング」とは、ソリューション開発に用いられる手法のひとつ。
いわゆる会議室でのミーティングとは違い、課題に対してデザイン的な考え方と手法で解決策を見出すアプローチ方法のことを言います。
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赤坂さん:ちなみに今このボードに書かれているのは、心肺が止まったときに使うAEDの使い方を知らない方が多いという課題を解決するためにしたディスカッションの一部です。
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赤坂さん:ここには社員だけでなく、さまざまな業種の企業の方が集まってディスカッションしています。
未来を見据えたイノベーションを起こすために、医療機関以外のさまざまな異業種の企業と積極的に提携、連携していくことが必要だと感じています。
フィリップス極秘のプロトタイプ制作工房「IT LAB」
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SENDAI INC.:また新しいお部屋にご案内していただいたのですが、赤坂さん、さっきから手に持っているのはもしかして……?
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赤坂さん:これですか? 心臓です(!)。
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赤坂さん:ここは「IT LAB」といって、つまり工房ですね。機密性の高いデータを扱うので、社内でも限られたメンバーしか入室を許されていない極秘の部屋になります。
データサイエンティストが医療データを使い、データのAIアルゴリズムをつくったり、3Dプリンターを使ってアイデアを可視化したり。
ソリューションを加速させるための機能を持つ部屋になります。
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SENDAI INC.:ディスカッションをしたアイデアを元にプロトタイプを制作する部屋ですね。
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赤坂さん:そう、ディスカッションをしたらプロジェクトの計画を立案する。
そしてプロトタイプに落とし込み、フィードバックをし、さらなるディスカッションを重ねていく……。
事業化までコマを進めるためにも、先ほどのデザインシンキングはこういったプロセスを踏んでいきます。
プロトタイプを作るこの工房も欠かせない存在です。
VR×ヘルスケアの新しいイノベーションを模索!「VR Room」
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赤坂さん:VR Roomでは、あくまでも一例ですがVRを使って認知症患者の擬似体験をし、それをソリューション開発に活かしたり、世界中の観光名所を巡りながらリハビリができたり。
VRとヘルスケアを結びつけて新たなイノベーションを起こせないかと試行錯誤しています。
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赤坂さん:このようにさまざまなエコシステムをつくったり、最新のテクノロジーを導入したりすることで、世界に向けて発信できるソリューションを創出していこうと、日々取り組んでいます。
ヘルスケア×IT、ヘルステックでできること
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SENDAI INC.:今回、フィリップスさんがテクノロジーをいかに活用しているのかがわかりました。
ヘルスケア×ITのヘルステックを使ったサービスで構想中のものはどのようなものがありますか? -
赤坂さん:フィリップスでは長野県伊那市にて、医療×MaaS(モビリティ アズ ア サービス)を実現するヘルスケアモビリティを2019年12月から運用開始しています。
どういうものかというと、看護師、心電図モニタや血圧測定器など医療機材を載せた車両が、患者さんの家まで行き、医師は離れた病院・クリニックから遠隔にて診察ができるというものになります。
テクノロジーを使って移動と効率という課題解決を目指します。 -
SENDAI INC.:なるほど!
病院に行きたくても交通手段がなかったり、外出が困難な方でも、より身近に状態にあった医療が受けられる、ということですね。 -
赤坂さん:はい。
今後もこうした地域から、高齢化の加速、医療施設・従事者の不足、交通手段がない、などの課題を解決し、全国、そして世界へ発信していけたらと思います。
東北大学との共同開発も。
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赤坂さん:仙台では、東北大学ともさまざまな領域で共同開発を取り組んでいます。例えば、電動歯ブラシを健康維持につなげるための取り組み。
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赤坂さん:電動歯ブラシとアプリを連携することで、磨き残しなどがスマホに表示され、正しく磨くように指示を出してくれるんです。
口腔の情報というのは、脳卒中や糖尿病など全身のさまざまな病気に関係していると言われています。歯磨きをしっかりして、病気の予防につなげようという狙いがあります。
事業化するためには臨床的なエビデンスが非常に重要ですので、東北大学のような権威ある大学とタッグを組んで研究しています。
仙台市に拠点を置いた理由
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SENDAI INC.:それにしても、どうして仙台に拠点を?
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赤坂さん:じつは、東北地方は日本全体の高齢化率の平均に対して10年ほど先に進んでいるいわば課題先進地なんです。
ここで課題を解決できれば、日本全国、ひいては世界中で解決できるはずなんです。 -
SENDAI INC.:中でも仙台市を選ばれたのはのなぜですか?
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赤坂さん:イノベーションを起こすには有力なパートナーの存在も必要です。
東北大学や地元企業、そして仙台市などといい関係性ができていたこともあり、仙台に拠点を設けました。 -
SENDAI INC.:今後、ヘルステックが進んでいったらどのような未来が待っているとイメージしていますか。
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赤坂さん:シンプルに、全員が健康になる未来が待っているんじゃないでしょうか。
たとえば、ヘルステックが発展したら病気の予防にもつながる。
もし病気になっても、ヘルステックによりさらに医療のアウトカム(治療や予防による臨床上の成果)が改善されます。
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SENDAI INC.:そうすると、もしかしてヘルステックが発展することで医療従事者の方の働き方改革にもつながりそうですか?
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赤坂さん:そうです。現状、医療従事者は劣悪な勤務環境を強いられていて、それが大きな課題になっています。
でも、ヘルステックが普及すれば、医療従事者の負担も軽減する。そして、医療費の削減にもつながるんです。
最先端のテクノロジーなどが駆使された、フィリップスのコ・クリエイションセンター。世界的大企業が仙台にイノベーション拠点を構えたのは、東北、仙台が課題先進地域だったことが大きな理由でした。
現場のニーズや課題をリアルタイムで抽出し、仙台市や東北大学などの強力なパートナーとともに、仙台からイノベーションが起こる日もそう遠い未来ではないかもしれない——そんなことを身近に感じる取材でした。
PROFILE
フィリップス・ジャパン(旧フィリップス エレクトロニクス ジャパン)は、超高齢者社会を迎える日本の健康と医療の問題に貢献したいと、2019年4月1日よりフィリップス・レスピロニクス合同会社と統合し、ヘルスケア分野の変革に取り組んでいるヘルステックカンパニーです。 今後、病院で使用されるフィリップスの先進医療機器やパーソナルヘルスと呼ばれるオーラルヘルスケア(電動歯ブラシ)、AED、在宅呼吸器などがクラウド上で繋がることで、人々の健康な生活、予防、診断、治療、ホームケアという「一連のヘルスケア・プロセス」において、革新的な医療ソリューションを提供していきます。医療従事者の皆様、患者様だけでなく、すべての人々の健康な生活への貢献を目指します。
Philips Co-Creation Center
Photo:蝦名恵一
Words:幸谷亮