06/24WED

LAB

世界初のドローン飛行実験を
仙台市から。
防災・減災にイノベーションを起こす
ノキア共同実験徹底レポ

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東日本大震災を経験し、その教訓を踏まえた新たな防災関係産業の創出を目指す仙台市……。地震や津波、台風などの自然災害は日本全国・世界各国で甚大な被害を繰り返しています。二次災害のリスクも大きく、東日本大震災のときには若林区の2名の職員が避難誘導中に帰らぬ人となりました。

そういった痛ましい事故を二度と起こしてはいけない——そんな思いを叶えてくれそうな実証実験が行われました。


ドローンの重量はおよそ10キロで、最高速度は時速80km

実証実験を行ったのは、仙台市とノキアソリューションズ&ネットワークス(以下、ノキア)。ノキアといえば、かつて携帯電話市場でナンバーワンのシェア率を誇るなど、世界的に有名なフィンランドの大手ICT企業です。

そんなノキア社製のドローンを使った2回の飛行デモが実施されました。


ボディのボトム部に釣り下がる白い部分がスピーカー



こちらはカメラを携えたドローン。勇ましい

大規模災害時でも安心の“プライベートLTEネットワーク”

今回の実装実験でポイントとなったのは、“プライベートLTEネットワーク”を活用してドローンを飛行させた点です。

どういうことかというと……。

東日本大震災のとき、携帯電話がつながりにくい状況に遭遇した人も多かったはずです。これは、同時に大勢の人がネットワークに接続したことで、通信回線が大渋滞を起こしたことが原因でした。

ドローンもネットワークを介して制御しているので、いざ大規模災害時に飛行させようとしても、ネットワークが混雑して使いものにならない……なんてことも考えられます。

ですが、ドローン専用のネットワークがあれば、いくらほかの回線が混雑していても安心して飛ばせます。それを可能にしているのが、今回の実証実験で活用された“プライベートLTEネットワーク”なのです。


プライベートLTEネットワークで制御したドローンが、津波の避難広報をするのは世界初

聞こえる?見える?緊張のドローン飛行デモ1回目

1回目のデモでは、ドローンに搭載したスピーカーから避難広報し、地上で聞こえるかを確認。同時に、津波の到来状況や沿岸部の様子を別のドローン搭載カメラで撮影します。

撮影した映像は、南蒲生浄化センターに設置しているモニターで監視しました。


あっという間に遠くへ……

いよいよドローンが飛び立つと、搭載されたスピーカーから「緊急、緊急、大津波警報発表。緊急、緊急、大津波警報発表」というアナウンスが聞こえてきました。

この日のデモでは、秒速10mの速度でドローンが飛行。南蒲生浄化センターを出発し、およそ5km先にある荒浜小学校を目指します。


高精細のHDカメラなので、キャストの姿もしっかりキャッチ

5分ほど飛行したところで、ドローンに搭載されたカメラが荒浜小学校付近で待機していたスタッフを捉えたようです。


3Dマウスを使えば、ズームしたりカメラの向きを変えたりすることも可能

ドローンから発せられるアナウンスがスタッフまで届いたことを確認できたら、1回目のデモ飛行は終了です。ちゃんと聞こえたようで、一安心。

ドローンは人の避難を誘導できるのか?ドローン飛行デモ2回目

続く2回目は、大津波が沿岸に迫る状況を想定し、逃げ遅れた人たちをドローンがスピーカーを使って避難場所まで誘導するデモです。無事に発見し、誘導できるのでしょうか。

ドローンに搭載されたスピーカーからは、「こちらは仙台市です。津波警報が発表されました。海岸付近の方は、高台に避難してください」というアナウンスが流れています。1回目と同じく離陸から5分ほど経過すると……。


「SOS」「NOKIA」と書かれた紙を掲げるスタッフを発見!

無事、要救助者役のスタッフを発見しました。

スピーカーから発せられる「センターハウスの駐車場にいる方たち、津波が来ています。荒浜小学校に避難してください」というアナウンスもしっかり聞こえているようです。

ドローンの次なる使命は、要救助者を避難場所の荒浜小学校に誘導すること。

地元の人なら荒浜小学校の場所が瞬時にわかるかもしれませんが、そうでない場合、気が動転してうまく避難できないことも……。

そういった事態を防ぐため、最後までしっかり避難誘導するのがドローンの使命なのです。


参加者も真剣に見守っています

要救助者が車に乗り込むと、ドローンが先導役となって荒浜小学校を目指します。ドローンについていくだけなので、心の余裕にもつながりますよね。


車で避難している様子を、カメラ搭載ドローンがしっかり撮影中


2機のドローンは、南蒲生浄化センターで操作している

ドローンが避難誘導を終えたようです。モニターを見ると、上下にふたつの画面が写っているのが確認できます。上の画面は高精細のHDカメラ。一方、下の画面はサーマルカメラが映し出した映像です。


ふたつのカメラが搭載されているのが確認できる

サーマルカメラというのは熱を検知できるカメラで、それにより、樹木などで茂った場所でも救助者を見つけられる優れもの。また、夜間の暗い状況でもドローンを操作できるなど、メリットだらけ。


避難誘導も終え、ドローン帰還。お疲れさまでした!

仙台市とフィンランドの深いつながり

今回、ノキア協力のもと実現できた、ドローン飛行実験。でも、なぜノキアが? 実は、フィンランドと仙台市には、2005年からの深いつながりがあるのです。

仙台市とフィンランドのオウル市は2005年、「産業振興協定」を締結しました。

オウル市は無線通信技術の発祥の地として知られ、人口約20万人の小さい都市ながらもICT企業が450以上も存在する、“ヨーロッパのシリコンバレー”とも呼ばれています。

そんなオウル市とのネットワークを生かし、仙台市では数々の取り組みを実施しています。

そのひとつが、「仙台フィンランド健康福祉センタープロジェクト」。フィンランドと日本の企業・大学が連携し、フィンランド型福祉と日本の福祉を融合させた、高齢者の自立に役立つ健康福祉機器・サービスの開発・提供を進めています。

また、仙台・東北にゲーム/ICT産業を構築するために設立された「グローバルラボ仙台(GLS)」も、オウル市なしでは語れません。

GLSではオウル市とのネットワークを活かし、グローバル人材の育成や企業の海外進出のサポートを行っていて、国内外の最新ITトレンドを学ぶセミナーやビジネスマインドを持つ学生を育てる課外授業などが行われています。

世界的に有名なノキアが仙台市とタッグを組んだ理由

最後は、ノキアのジョン・ハリントン代表執行役員社長に、気になる疑問を聞いて見ました。

――いつから開発がスタートし、実用化はいつぐらいを目処にしているのでしょうか?

「3年ほど前から着手し、2020年度に一部実用化を目指しています」


ノキアのジョン・ハリントン代表執行役員社長

――具体的に一部実装というのは?

「今日の実証実験で使用したドローンは2機で、プライベートLTEのアンテナは1本だけ。これでひとつの基地局です。基地局があとふたつあれば沿岸部のおよそ10kmをすべてカバーできます。

すべての準備が整うまではもう少し時間がかかりますので、すでにある基地局から実装するという意味で“一部実装”という表現を用いました」

――世界初の実証実験を、今回どうして仙台市で行なったのでしょうか?

「日本は地震や台風などといった災害の多い国で、なかでも仙台市は東日本大震災という痛ましい災害に見舞われました。

我々が持つ最先端の技術が日本の防災・減災にどう役に立つのか、世界が注目しています。そういった意味では仙台市とタッグを組んで今回、このように世界初の実証実験を実施できたことは、非常に大きな意義があると考えています」

最後は、当日参加していた仙台市の高橋新悦(たかはし・しんいち)副市長からのコメントでこの日の実証実験は幕を閉じました。


ドローンでの避難誘導へ期待を寄せる高橋副市長

「さかのぼること8年8ヶ月。東日本大震災により多くの人々の尊い命がなくなりました。そのなかには、避難誘導中に殉職した若林区役所の職員ふたりも含まれています。このふたりの避難誘導により、住民の方が数多く救われたのも間違いありません。

ただ、避難誘導をする職員が命を落とすのは、残されたわれわれとしてはとても寂しく、悔しい気持ちでいっぱいです。2度とこのようなことは避けるためにも、ドローンなどで上空から避難誘導ができるのでしたら非常に有効的であり、とても期待しております」

海を越え山を越え、あらゆる人の情熱が合わさって実現した今回のドローン飛行実験。これが実際に実装されれば、多くの人の安全を守る救世主になることは間違いないでしょう。

世界初を仙台市から発信する、ドローン防災や防災にITの技術を掛け合わせる防災テックの動きに注目したいですね。


Photo:蝦名恵一
Words:幸谷亮