09/11THU
PEOPLE
可野の部屋第5弾|
Uターン転職で見えた
仙台で働く理由
〜enspace佐藤さんの選択とは?〜
東京でキャリアを積んだあと、再び仙台へ──。
Uターン転職をしたenspaceの佐藤祐作さんは、なぜ、今あえて仙台で働くのか。
インターンから正社員へ、都市から地域へと舞台を移したその歩みの背景には、”地方だからこそ”描けるキャリアの可能性がありました。
人材育成やコミュニティ運営の現場から見えてきた、UIJターン検討者や若手に向けた“リアルなヒント”をお届けします。
(左)エンスペース株式会社 事業部長代理 コミュニティマネージャー 佐藤 祐作(さとう・ゆうさく)さん、(右)エンライズホールディングス株式会社 コミュニティ事業推進室 室長 可野 沙織(かの・さおり)さん
佐藤さんがenspaceインターン生の時にインタビューした記事も、ぜひご覧ください。
▼可野の部屋出張版「仙台から宇宙を目指す学生起業家が誕生」
https://sendai-inc.com/people/kano-room-field-interview/
学生起業から就職へ
方向性を見極めるための決断
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可野さん:佐藤さんは学生時代、どんなことをされていましたか?
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佐藤さん:高専で建築とデザインを学びながら、個人事業主として仕事をしていました。内容は主にウェブデザインやフロントエンドのコーディングです。
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可野さん:学生のうちから個人事業主として活動されていたんですね。きっかけは何だったのでしょうか?
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佐藤さん:大きなきっかけの一つは、enspaceでのインターンです。インターンを通じて多くの起業家と出会い、刺激を受けるうちに「自分もやってみようかな」と思い始めました。
最初は完全に“当たって砕けろ”の精神でしたね(笑)。不安もありましたが、「とにかくやってみる」という行動が今につながっていると思います。 -
可野さん:実際に始めてみて、いかがでしたか?
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佐藤さん:お金をいただくことの大変さを痛感しました。学生、インターン、個人事業主という“三足のわらじ”で活動することも大変でしたが、自分の成果に初めて“お金”という形で評価をもらえたのは、すごく大きな経験だったなと思います。
会社員であれば成果がなくても給料は出ますが、経営者はお客様が望む結果を出さなければ1円も入ってこない。その現実を肌で感じられたことは、大きな学びでした。 -
可野さん:そのまま個人事業を続ける選択肢もあったと思うのですが、なぜ就職を選んだのでしょうか?
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佐藤さん:当時の自分には「これをやりたい」という明確な信念がありませんでした。まずは力をつけ、方向性を見極めることが大切だと考え、就職を決めました。
東京で挫折を乗り越えMVPへ
「失敗の数だけ学びがある」
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可野さん:就職先に東京を選んだ理由は何でしょうか?
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佐藤さん:正直、新卒で仙台に残ることは考えていませんでした。まだやりたいことが定まっていなかった自分には、たくさん挑戦して、たくさん失敗できる環境が必要だと感じました。その“打席数”が圧倒的に多いのが、東京でした。
実際、東京での2年間は本当に大変で、ボコボコにされました(笑)。でもその中で、単に業務をこなすだけでなく「事業や会社の存在意義を考えながら働く」という姿勢を学べたことは大きかったです。 -
可野さん:かなり大変な思いをされたんですね。
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佐藤さん:営業成績は新卒30人中、下から数えた方が早いほどで、3カ月間まったく成果が出ませんでした。不器用なので、要領よく立ち回ることができなかったんです。でも逆に、「それなら一つひとつ実直にやるしかない」と、決意して取り組みました。
その結果、ありがたいことに、入社1年で新人賞、1年半でMVPをいただきました。最初は苦しかったけれど、不器用なりにも実直にやり切ったことが成果につながったのだと実感しています。 -
可野さん:その姿勢が評価につながったんですね。東京での経験を通じて、何が得られましたか?
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佐藤さん:大きく2つあります。ひとつは、「自分が何のために働くのか」という感覚が少し見えてきたこと。もうひとつは、圧倒的な“失敗の経験数”です。最初の頃は本当にうまくいかなくて、毎日が失敗の連続。でも、その数だけ学びがありました。
順調な東京でのキャリアを手放してでも、
仙台に帰る理由とは?
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可野さん:東京で順調にキャリアを重ねていた祐作さんが、仙台へUターンしてくれました! おかえりなさい(笑)。 enspaceに戻ってきた理由は何だったのでしょうか?
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佐藤さん:実は、学生時代から「いつか仙台に戻りたい」という思いはぼんやりありました。ただ、それが明確になったのは、社会人になってからです。enspaceでのインターン経験や、東京での営業職を経て、「自分は人やコミュニティをエンパワーすることにやりがいを感じる」と気づきました。
そんな時に、可野さんから『enspaceはこれから、組織を循環させていくフェーズに入る』というお話を伺い、胸が高鳴りました。ここが自分の目的を体現できる場所だと直感したんです。 -
可野さん:それはすごく嬉しいです。東京で続ける選択肢もあったと思うのですが、なぜ仙台だったのでしょうか。
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佐藤さん:うーん……。正直に言うと、“愛”ですね。仙台とenspaceに対する愛情が大きかった。それ以上でも以下でもなくて。前職ではありがたいことに、評価もしてもらえて、順調にキャリアを重ねていました。なので、周りから「なんで辞めるの?」とよく聞かれましたが、その時は「完全に感情です」と答えていました。
仙台には東京にはない魅力があります。ただ、それがうまく伝わらなければ、「リトルトーキョー」と言われてしまうこともある。それを変えていけるのが、enspaceのようなコミュニティの力だと思いましたし、自分もその推進役になりたいと考えました。
目的ある人にこそ地方は魅力的
仙台から始まるキャリアの形
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可野さん:仙台に戻ってきて半年が経ちました。「働く意味」はより具体的になってきましたか?
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佐藤さん:今は「人やチーム、地域を盛り上げること」が一番しっくりきます。インターン時代から、誰かが元気になる瞬間や一歩を踏み出すきっかけを作れることが本当に楽しいんです。そこから新しい動きやイノベーションが生まれたら、最高ですね。
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可野さん:仙台で働いてみて、どんな風に感じていますか?
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佐藤さん:僕は仙台で働くことをとてもポジティブに捉えています。やりたいことが明確で、それを実現する手段として仙台を選んだからです。
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可野さん:逆に、仙台での就職に迷っている人や新卒で地方就職を考える人にアドバイスするとしたら?
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佐藤さん:正直、「まず東京に出た方がいい」と思うこともあります。視野や経験を広げる意味では東京の方が水準も刺激も高いですし、特に目的が定まっていない人にとっては都会での経験が価値になると思います。でも、目的を持っている人にとって地方はとても魅力的です。
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可野さん:今、学生に向けた勉強会を企画していますよね。それもそういった思いからですか?
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佐藤さん:そうですね。「働くってどういうこと?」「何のために働くの?」という問いを、早いうちから持ってほしいです。
アルバイトやインターンも、目的が見えているかどうかで得られる経験や価値は変わります。もし「本当にやりたいことは別にあった」と早い段階で気づけたのなら、それはとても価値のあることだと思います。 -
可野さん:仙台で働くハードルって、何だと思いますか?
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佐藤さん:ロールモデルが見えにくいことですね。事業規模や給与面では東京に敵いませんし、東京の方が華やかで“イケてる”印象を持たれやすい。でも、地方にも想いを持って働く素敵な大人はたくさんいます。その存在をもっと知ってほしいです。
結局、「この人と働きたい」というのが就職の大きな動機になるじゃないですか。だからこそ、地方にも「自分もこうなりたい」と思える先輩の姿を見せていくことが大切だと思います。仙台で働く素敵な先輩をご紹介しますので、ぜひenspaceに来てください。
ここからはenspaceの人材育成や、仙台で働くことのメリットを伺います。
人材育成のゴールは“入社”ではない
その先にある価値とは
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可野さん:enspaceでは、新卒を採用していません。それでも時間と労力をかけてインターンの育成を続けています。そうすると、「なぜそこまでやるのか?」と言われることがたくさんあります。佐藤さんはどう思いますか?
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佐藤さん:インターンを経験した学生たちが、別の会社に就職した時、「enspace出身」ということに誇りを持ってもらいたいです。
また、それはコミュニティが広がることにもつながりますよね。だからこそ、育てて送り出すことにも価値があると思っています。 -
可野さん:すごくよく分かります。コミュニティは会社の中だけにあるものではありませんよね。
たとえ別の会社に就職し、それぞれ異なるエリアで活動していたとしても、一度得たつながりは、きっと未来のどこかで活きてくるはずです。
イノベーションは、時に偶然のコラボレーションから生まれます。
enspaceでインターンを経験したメンバー同士が、将来また仙台で一緒に働いたり、新しいプロジェクトに挑戦したりすることで、その成果が地域へ還元されていく。そんな未来を描いています。
仙台や東北という広い視点を持ちながら「地域にとって本当に必要なことは何だろう?」と考えられる人材へと成長していってくれたら嬉しいです。 -
佐藤さん:前職でも半年ほど採用に関わったのですが、私が採用する時に大切にしているのは、「自分にない価値観を持っているか」というところです。
可野さんは、どんな基準で採用をしていますか? -
可野さん:私が最も大切にしているのは、「顧客対応者としての資質」です。
その人の視点の中に「お客さまが存在しているかどうか」、面接では、さまざまな質問を通してその点を見極めるようにしています。
どんなに優秀でスキルが高い人であっても、「誰のためのサービスなのか」を誤ってしまうと、本来はお客さまのためであるはずの仕事が、気付かぬうちに「自分が気持ちよくなるためのサービス提供」にすり替わってしまいます。けれども、お客さまはそうした姿勢を必ず見抜きます。だからこそ、「誰のために、何のために、いま何をしなければならないのか」を常に考えられる人と一緒に働きたいのです。
そういう人は、自分自身がどんなに大変な状況にあっても「困っている人がいたら助けよう」と自然に思えるものです。その思いが社内にも波及して、助け合いの精神が広がり、結果として健全で良い職場環境が生まれていく。私はそう信じています。
都市の刺激、地方の温かさ
2つの環境を経験して見えたこと
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佐藤さん:可野さんも東京と仙台で働いたことがありますよね? 今度は、可野さんだからこその東京で働くメリット、仙台で働くメリットを教えてもらいたいです。
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可野さん:暮らしの面だと、東京は常に新しいサービスや技術に触れられることが魅力ですね。
例えばUberは、仙台でサービスが始まったのが東京の約5年後でした。事業によっては地方の方がスモールビジネスとして始めやすい面もありますが、新しいサービスや技術に出会える機会はやはり東京の方が多いと思います。 -
佐藤さん:働く環境としてはいかがですか?
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可野さん:東京は企業や人口が多い分、常に競争が激しいです。その厳しい環境に身を置くことで、自然と視座が上がり、上を目指す姿勢が育まれます。たとえば、バレーの強豪校を例にすると、部員数が多くポジション争いが激しい分、実力は磨かれやすいですよね。
一方で地方は、競争環境が限られるため、意識して外の刺激を得ようとしないと成長が頭打ちになるリスクはあります。しかし、一人ひとりが多くの役割を担い、承認を得られやすい環境だと思います。つまり都会では「多くの中の一人」になりがちですが、地方では「あなたが必要」と言われる機会が多いと思っています。
だからこそ、佐藤さんのように、仕事で大切にしたい軸ができて、競争以外の価値観からも幸福を得たいと考える人には、地方のほうが合っているのかもしれません。私自身も、これまでの経験からそう感じています。
気軽に学び、つながる
仙台のITコミュニティの魅力とは?
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佐藤さん:私は東京で営業職が集まるコミュニティしか参加したことがないのですが、どうしてもビジネス目的になり、何か利がないと関係性を築きにくい環境でした。
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可野さん:仙台では、以前にもSENDAI INC.さんで取り上げてもらった「はじめてのIT勉強会」のように、長く続く安心感のあるコミュニティが多いですね。ビジネス目的というより、交流を広げたり知見を増やしたりすることが目的なので、気軽に参加しやすいと思います。
▼「はじめてのIT勉強会」関連記事
仙台ITコミュニティで人と、世界と、「つながりはつくれる」
https://sendai-inc.com/lab/sendai_it_community/
プログラミングを気軽に学べる「Sendai.go」や「Scrum Fest Sendai」といったイベントも開催されているので、気になる方は参加してみてください。
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佐藤さん:今後も、参加しやすいコミュニティが立ち上がっていくと良いですね。enspaceでサポートさせていただきますので、ぜひご相談ください。
東京と仙台、どちらで働くかに正解はありません。大事なのは、自分が今何をしたいのか、その目的に合う場所を選ぶこと。目的がまだ見えないなら、挑戦と失敗のチャンスが多い東京で働いたのち、仙台へ戻り、力を発揮するのも良いかもしれません。
そして、一人で悩むより、まずはコミュニティや勉強会に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
PROFILE
enspaceは、2018年6月に宮城県仙台市にオープンした「東北最大級のシェアオフィス・コワーキングスペース」です。 2025年度から新体制となり、これまでのenspaceの想いを引き継ぐかたちで「多様な"en"のHUBとなり、挑戦できる環境をつくる」というミッションを新たに掲げる。熱い想いのある方々の挑戦を支える場を創り、多様な"en"(「縁」,「援」,「円」,「Energie」,「Enjoy」,「Enhance」)が交差し集まる環境を提供します
エンライズホールディングス株式会社(2012年設立)は、「今ここにない未来を創る」をグループビジョンに掲げ、IT・HR・コミュニティ・グローバル・Webの5つの事業領域で展開するグループ各社のシナジー創出や経営支援を行う事業持株会社です。デジタル社会における課題解決型企業として、より豊かな未来の実現を目指し、日本経済・アジア経済の発展へと努めています。
エンスペース株式会社 事業部長代理 約2年半にわたりenspaceにてインターンシップを経験し、運営補助から経理業務に至るまで幅広い業務に携わる。 卒業後は、東京のIT企業に入社し営業担当者として高い成果を上げ、全社総会にて全社MVPを受賞。その後、事業部マネージャーへと昇格し、SaaS営業チームのマネジメントを担当する。 2025年4月より、地元・仙台および自身の成長の原点であるenspaceに再び関わり、enspaceが地域に還元できる場であり続けるために、事業全体の推進役を担う。
エンライズホールディングス株式会社 コミュニティ事業推進室 室長 10年以上にわたり、複数企業のCS(カスタマーサクセス)の立ち上げに携わり、人材の採用・育成、運用体制の構築、ならびにサービス品質の改善等において、責任者として従事。 エンスペース株式会社においては、立ち上げから最高執行責任者(COO)を務め、事業成長を牽引すると同時に、コミュニティマネージャーとして東北地域におけるビジネスエコシステムの醸成にも尽力する。 現在は、グループ母体企業へ移籍し、enspace事業の推進に加え、新規コミュニティの立ち上げ、コミュニティマネージャー人材の育成、および企業向けのCS領域におけるコンサルティング業務にも尽力している。
enspace
Photo:SENDAI INC.編集部
Words:笠松宏子