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PEOPLE
可野の部屋出張版
「仙台から宇宙を目指す
学生起業家が誕生」
仙台で「建築✕宇宙」で起業! 仙台のシェアオフィス「enspace(エンスペース)」でインターン後、学生起業家として活躍している株式会社ElevationSpace CEO小林 稜平(こばやし・りょうへい)さん。東北大学在学中の2021年2月に会社を立ち上げ、宇宙ベンチャーとして小型の人工衛星の開発に取り組んでいます。
小林さんは世界を変える30歳未満の日本人「Forbes Japan 30 UNDER 30」や、東洋経済「すごいベンチャー100」に選ばれるなど、国内外で注目を集めています。
「enspace(エンスペース)」は、仙台市のIT業界に携わる人々が集うコワーキングスペース。ここでは、凝縮された仙台市のITコミュニティが育まれていると聞きます。その輪の仕掛け人とも言えるのが、enspaceの可野 沙織(かの・さおり)さんです。
■前回の記事:『仙台ならではのITコミュニティ、いまとこれから。enspaceからお届けする「可野の部屋」』
今回は、現在enspaceでインターンをしている佐藤 祐作(さとう・ゆうさく)さんと共に、座談会を開催。
「仙台市や東北大学の起業を後押しするサポートが充実しているって本当?」「社会人未経験からの仕事術とは?」、新たに挑戦したい人へのヒントをたくさんお伺いすることができました!
株式会社ElevationSpace CEO小林 稜平(こばやし・りょうへい)さん
enspaceコミュニティマネージャー 可野 沙織(かの・さおり)さん
インターンでの経験が今も自分の土台になっている
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可野さん:小林さんは元々、学生時代にenspaceでインターンをしてくれていました。
まずは、なぜenspaceでのインターンを志望したのか教えてください。 -
小林さん:enspaceで開催されていたイベントに参加した時に、インターンに誘っていただきました。
起業をするためというよりも、「自分の経験になることがしたい」という思いが強かったですね。 -
可野さん:まだenspaceが立ち上がったばかりのころで、手探りの状態だったよね(笑)。
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小林さん:とりあえず仕事を探すところからでしたね(笑)。
僕は社会人経験がないので、enspaceでメールの書き方やコミュニケーションの取り方など、「ビジネスの基本」を学びました。マニュアルやルールもなかったため、主体的に課題を解決する力がつきました。 -
佐藤さん:今はマニュアルやルールがあるので、先輩方のおかげですね。さらに先の「もっと良くするにはどうするべきか」を現在のインターン生で構築しているところです。
宇宙建築をやるための手段が起業だった
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可野さん:面接では起業への強い意思は無い印象でした。
その時から起業までどのような心境の変化がありましたか? -
小林さん:秋田の高専で建築学を学んでいて、東北大学へ編入することになりました。編入が決まった19歳の時、宇宙建築と出会いました。宇宙エレベーションや宇宙ホテルなど、壮大な世界に感動し、今後需要が増えていく事業だと感じました。
そして、宇宙建築をやるためにどうしたら良いか考えた時、3つの選択肢が生まれました。
一つ目は宇宙事業をやっている大手企業に就職すること。
二つ目は大学などで研究者となること。
三つ目は自分で宇宙事業の会社を立ち上げることでした。 -
可野さん:起業ありきではなく、「やりたいことをやるためにどうするか」と考えたんですね。
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小林さん:そうなんです。現在、宇宙事業がある企業はほとんどありません。そこで、enspaceで出会った起業家の方や、SNSでつながった宇宙関係に詳しい人へ東京まで会いに行きました。
様々な人の話を聞いて、ダイレクトにビジネスしたいと考え始めました。
東北大学で航空宇宙学を研究している桑原先生に相談したところ、意気投合して起業を決意しました。
経営者との出会いでいつの間にか起業が身近なものに
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佐藤さん:enspaceでは定期的にイベントを開催していて、僕も参加させてもらいました。
でも、名刺交換して終わりではなく、会いに行く行動力がすごいです。 -
小林さん:経営者の人と話ができる貴重な経験なので、この機会をフル活用しようと考え、東京へもフットワーク軽く足を運びました。
興味を持ってくれた方が、数珠つなぎで宇宙系の人を紹介してくれたりして、人脈が広がりました。
経営者の皆さんって、「やってみればいいじゃん!」って結構簡単に言うんですよね(笑)。起業への価値観が変わり、「どうにかなるだろう」という思いが生まれました。
宇宙事業は世の中にやらないことをやる事業なので、長期のビジョンが必要です。本当にやりたいことがきるのは、20年以上も後のこと。25歳で立ち上げたら45歳なので、その時にベストな状態にいるためには良いタイミングでした。
仙台では学生起業へのチャンスが多い
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可野さん:実際に仙台で起業をして一年半が経ちました。仙台での起業について、メリットやデメリットを感じることはありますか?
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小林さん:東京は企業の数が多いので、アドバイスや仲間集めがやりやすいと思います。でも、仙台から東京へ1時間半で行けますよね。
やり方次第で解決できるので、場所は関係ありません。東京と戦うのではなく協業する、技術や人材を東京から仙台へ持って来れば良いと思っています。 -
佐藤さん:特に仙台の中でもenspaceでは小林さんのような起業家の先輩方が多く、起業への意識は強くなるかもしれないです。
自分もインターンをしながら、個人事業主としてWeb制作の仕事に挑戦しました。 -
可野さん:それに、東北大や仙台市では起業に力を入れていて、小林さんもサポートを受けたり、ビジネスコンテストで賞を取ったりしていますよね? どんなサポート内容だったのか教えてください。
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小林さん:まず、TSUG(現・東北大学スタートアップ事業化センター)というプログラムに参加し、仙台の企業さんにメンターをしていただきました。他にも東北大学にはVEXという起業の部活があり、起業家の人にアドバイスをもらうことができました。
また、ビジネスコンテストでは、東北大学ビジネスコンテスト、仙台市のTGA(Tohoku Growth Accelerator)に出場しました。事業や起業に必要なことを相談できる人が周りにいるのは心強いです。
IT SIDEでは、小林さんの事業内容や仕事のヒント、今後の目標についてお伺いしました。
再突入技術によって宇宙への可能性が広がる
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可野さん:改めて、小林さんの事業内容と技術について教えてください。
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小林さん:現在、取り組んでいるのが小型宇宙利用・回収プラットフォーム(ELS-R)事業で、2023年には小型の衛星を打ち上げる予定です。
私たちElevationSpaceでは宇宙ステーションを作るのではなく、無人の小型人工衛星を開発し、宇宙ステーションでやっているような実験を行えるプラットフォームを整備したいと考えています。
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小林さん:最も難しいのが、宇宙から地球へ帰還するための再突入技術です。宇宙に行く技術はたくさんありますが、宇宙から戻ってくる技術はまだほとんど取り組まれていません。そこにチャンスがあると思っています。
軌道上にある人工衛星は秒速7kmで回転しているので、地球に戻ってくるには強力なエンジンが必要となります。
地球へ戻す時には海の上の狙った場所に落とす必要があり、衛星の制御精度が重要になりますし、大気圏で高温環境になるので耐熱技術も欠かせません。
そんな風に一言で「再突入技術」と言っても、それぞれのスペシャリストの技術が組み合わって実現できるのです。
この技術が成功すれば、例えば宇宙空間では水と油が混ざるので、新しい物質を作ることができるかもしれません。地球では開発できない、薬をつくることができるかもしれません。宇宙で工場を建てれば、大量生産も可能になります。
時間を無駄にせずにどれだけ吸収できるか
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可野さん:人々に役立つ新技術がどんどん生まれていくのがワクワクします。小林さんが仕事をする上で心がけていることはなんでしょうか。
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小林さん:時間を無駄にしないよう、効率的にインプットすることを心がけています。Googleカレンダーで寝る時間も含めてスケジュール管理をしています(笑)。
今は知識も経験も吸収することが大事だと思っています。昨日の自分より成長し、レベルアップできたら良いですね。
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佐藤さん:小林さんはオンとオフの切り替えが上手ですよね。いつもは良いお兄さん、という感じでふざける時は一緒に楽しむけれど、集中する時は全力で集中している姿が印象的でした。
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可野さん:同じ時間でも質が違うと成長も違う。質を高めることは大切なのだと感じました。
カレンダーの他にも、お仕事で欠かせないツールはありますか? -
小林さん:SNSを活用しています。名刺交換をした人とはSNSでつながるようにしています。
今は関係ないかもしれないですが、いつか繋がることはあるので、人脈を無駄にしたくありません。それに、自分が発信したものを見てくださり、他へ繋がることもあります。
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佐藤さん:名前を知ってもらう努力が大事なんですね。
今後、仙台で起業を目指す学生へ何かアドバイスがあれば、教えてください。 -
小林さん:住む場所は変えられなくても、ネットでは全国や世界の人とやりとりはできます。僕も宇宙事業に興味が出た時は、ネット上でコミュニティを探して参加していました。
学生時代は周りに影響されやすいですが、それならば自分が目指す道を行く人を探して会いに行ったほうが良いと思います。
小型衛星とその先にある宇宙建築の夢
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可野さん:それでは、最後に今後の目標を教えてください。
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小林さん:2023年の小型衛星の打ち上げを成功させ、再突入技術を獲得することが当面の目標です。次のステップとしては大型衛星を開発して、2026年からのサービス開始を目指します。
これらの技術を獲得した後に、人が宇宙で生活できるようにする宇宙建築事業へと進んでいきたいです。
宇宙建築事業では、まず地球の軌道上に宇宙ホテルを作りたいです。そこで地球を見ながら食事をしたり、ゆっくり過ごしたりと宇宙旅行が体験できる空間を提供できたら嬉しいです。 -
可野さん:enspaceのみんなで宇宙旅行できたら楽しそう! 佐藤さんは、小林さんの話を聞いてどう感じましたか?
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佐藤さん:歳の近い先輩が、世界を相手にビジネスをする姿を改めて目の当たりにして、尊敬をしながらも「負けてられない」という気持ちになりました。こんな素晴らしい先輩が身近にいるenspaceでインターンができてよかったです。
また、来年度より東京で働くのですが、enspaceや個人事業で得た経験を活かして活躍できるように頑張りたいです。 -
可野さん:小林さんや佐藤さんのようにenspaceから、夢を叶えるために挑戦する学生さんが増えたら嬉しいです。
PROFILE
株式会社ElevationSpaceは、誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人の未来を豊かにすることを目指している東北大学発の宇宙スタートアップです。 吉田・桒原研究室でこれまで開発してきた数多くの小型人工衛星の知見を活かし、人工衛星内で実験や製造等を行うことのできる小型宇宙利用・回収プラットフォーム ELS-Rを開発しています。
株式会社ElevationSpace
Photo:SENDAI INC.編集部
Words:笠松宏子
※撮影時はマスクを外していただきました。