02/12FRI

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防災テック産業のおこりと拡大・推進へ向けた課題

「仙台市 × 防災」震災後10年の歩み vol.1

2021年、東北の人々に対して社会のあり方を問いただした東日本大震災の発生から 10 年を迎えます。10年の間で東北はどのように変化し、これからどこへ向かっていくのでしょうか。
今回の連載では、その方向性を「防災・減災」「ビジネス」「人材」の3つの観点から迫っていきます。連載1回目の今回は、仙台市産業振興課へ取材を実施し、「防災・減災」を軸とした新たなビジネス「防災テック」のおこりと、今後の取り組み拡大における課題を伺いました。

左より仙台市経済局 岸さま、小池さま、照井さま左より仙台市経済局 岸さま、小池さま、照井さま

仙台市が掲げる「防災テック」とは?

現在、仙台市では 2015年の第3回国連防災会議で策定された「仙台防災枠組 2015-2030」に基づき、「防災・減災」と「ICT」の組み合わせによる新たな産業「防災テック」の拡大・推進に取り組んでいます。
仙台市が行う「防災テック」の推進は、仙台防災枠組のゴールである「世界の災害リスク削減」を産業面からサポートする取り組みで、防災分野への新規テクノロジーの産官学金による社会実装および、地元企業を巻き込んだ新規ビジネス創出の 2 つを目標にしています。
推進の背景には、経済発展と社会的インパクトを両立した新たなソリューションを仙台から発信することで、防災・減災分野における世界での存在感を高めると同時に、県外の人や企業が仙台へ興味・関心を持つきっかけに繋げたいことがあります。

防災環境都市・仙台」の実現に向けた各種取り組み。その中でも「仙台防災枠組2015-2030」はその中核となる国際的な取り決めです。(提供: 仙台市)

現在、仙台市では 2015年の第3回国連防災会議で策定された「仙台防災枠組 2015-2030」に基づき、「防災・減災」と「ICT」の組み合わせによる新たな産業「防災テック」の拡大・推進に取り組んでいます。
折しもここ数年の間で、企業経営に SDGs(Sustainable Development Goals、持続的な開発目標)の考え方が取り入れられるようになり、経済成長と社会的責任を両立させる機運が高まったことは、防災テックの拡大・推進を行う仙台市にとって追い風と言えるでしょう。

ICT 産業の集積と「防災テック」

仙台市は元々、大手企業のコールセンターやカスタマーサポートをはじめとする、情報通信産業の誘致を多く行ってきた都市という特徴があります。AIやドローンなどをはじめとする、先端技術の成熟に伴う地域への高度人材集積の観点から、近年はICT企業の誘致や起業支援に力を入れており、2020年現在、市内のICT企業の数は400社以上にのぼっています。
一方、これらの企業では受託開発ビジネスが主な収入源である場合もあり、2020年を襲った「コロナショック」のような経済的インパクトが大きい出来事をトリガーとして、地域経済の動きが鈍るリスクをはらんでいます。
仙台市はこのようなリスクへ対抗するために、地元企業に対して自社ビジネス創出拡大に向けた取り組みをいくつか行っており、「防災テック」は仙台市が推進するオープンイノベーションによる新規事業の創出に関する取り組みの一つでもあります。

仙台市の経済成長のロードマップとなる「仙台市経済成長戦略2023」。「防災テック」は「イノベーションによる新たな成長の促進」のひとつに該当します。(提供: 仙台市)

 

「防災テック」の代表事例とも言える成果が、フィンランドの情報通信企業であるノキア社との連携・協力を通じて実現した、世界初となる「プライベート LTE ネットワーク網を用いた津波避難広報ドローン」の実証実験です。

2019年11月にノキアと共同で行われた世界初のプライベートLTE網による防災ドローン飛行実験2019年11月にノキアと共同で行われた世界初のプライベートLTE網による防災ドローン飛行実験。津波災害発生時、離れた場所に取り残された被災者を避難場所へ誘導する用途などに活用が期待されます。(提供: 仙台市)

 

仙台市は、2017年にノキア社と市民の安全・安心の向上と地域産業の支援に関する戦略的パートナーシップの締結を行っています。
このほかにも、2015年3月には内閣府より自動走行やドローン飛行などの近未来技術の実証を積極的に行う「近未来技術実証特区」に認定されており、この実証実験はこれまで積み重ねてきた「課題解決先進都市」としてのポテンシャルが発揮された結果といえるでしょう。
仙台市はこの成果を足がかりにして「防災・減災」にかかる実証実験を希望する企業を仙台へさらに呼び込むだけでなく、実証実験そのものに地域企業の参画を促したり、その成果を共有・伝搬することで地域産業の起爆剤としたい狙いがあります。

仙台市は東北大学と共同で、世界の防災・減災の国際基準「防災ISO」の策定を進行中。日本発の防災技術やシステムを世界へ輸出する準備を進めています。(提供:仙台市)

「防災テック」を推し進める上での課題と、
その解決策

国内だけでなく世界的にも珍しい、先進的な取り組みである自治体規模での「防災テック」。SDGsの考え方が浸透し、経営戦略レベルで「防災・減災」を考える企業が増える中、産業振興課から見た「防災テック」の拡大・普及に向けた課題は「組織間の関係性成熟」と「防災事業のマネタイズ」の2点であるといいます。
「防災・減災」の要素を含んだ製品やサービスは、災害時や緊急時以外で使われない恐れから事業化の難易度が高く、リスクを取れない地元企業は参入を諦めてしまう可能性があります。「防災テック」事業の立ち上げを支援し、防災・減災市場を盛り上げ、市場への参入が地元企業の成長を促す起爆剤とするために、仙台市はこれらの課題に対する支援を積極的に行っています。
その取り組みの代表例が、現在実施中の支援プログラム「仙台BOSAI-TECHイノベーション創出プログラム」「RBC(Regional Business Conference)2020」の2つです。
これらのプログラムには、災害対策へのニーズを持つ大企業を「パートナー企業」という形で巻き込んでおり、「防災テック」に取り組もうとしている地元企業へのサポート体制を構築しています。プログラムに参加した地元企業は、パートナー企業から先端技術や事業化のノウハウだけでなく、ニーズ創出に対しても支援を受けられるため、新規事業創出へのハードルが下げられるとしています。

仙台市が掲げる「BOUSAI-TECHイノベーション創出推進事業」のスキーム。仙台市と地元企業だけなく、東北大学やパートナー企業となる国内大手企業をも巻き込んでいることが特徴です。(提供: 仙台市)

 

一方、パートナー企業は自社の及ばない領域を中心とした防災・減災に対するニーズに対して、地元企業と連携することで解決を図ることができます。このような、企業同士のマッチングによるオープンイノベーションが起きることを期待しており、これがまさしく仙台市が考える「防災テック」の可能性であるといえるでしょう。
今後、同様のプログラムを実施する際は、参画企業だけでなくパートナー企業の数も増やしたいとしており、企業同士のコラボレーションによる新規ビジネス創出の加速が期待されます。

ハッカソン風景仙台市はフィンランド共和国と産業振興協定を結んでおり、防災分野でも連携。フィンランドのICT企業によるハッカソンや地元企業とのビジネスマッチングなど、その形は多岐にわたります。(提供:仙台市)

未来の防災産業に対する想いと、
「防災テック」が実現した先にある世界観

 

「防災テック」を進める原動力となっている「仙台防災枠組 2015-2030」は、SDGs とパリ協定に並ぶ国際 3 大アジェンダとなっており、枠組が終了する2030年まで、2021年で残すところあと9年となりました。防災環境都市としてだけでなく、調印場所としての社会的責任から、市として防災分野への貢献と成果を残すことに対する想いは非常に強いです。

左から岸さま小池さま「防災テック」の発展を通じて、「防災環境都市・仙台」の実現を通じた持続可能な都市づくりと持続的な経済成長の両立を目指します。

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Words:菊池崇仁